厚労省の調査方法変更は菅官房長官の“怒り”から出発していた疑いが
だいたい、前出の厚労省による検討会そのものが、こうした菅官房長官の“怒り”から出発している疑いさえある。
というのも、「毎月勤労統計」の調査では2〜3年ごとにサンプリングデータの総入れ替えをしていたが、2015年1月の入れ替えでは過去にさかのぼって補正をおこなったところ、第二次安倍政権発足以降の賃金伸び率が下振れした。同年4月にそのデータが公表されたのだが、6月にはさっそくこの検討会が立ち上げられたのだ。
そして、この検討会の第1回会合の議事録で、事務局である厚労省の姉崎猛・統計情報部長は最初にこう述べている。
「アベノミクスの成果ということで、賃金の動きが注目されておりまして、この研究会のテーマでございます「毎月勤労統計調査」でとっている賃金、特に実質賃金の動きが世の中的に大変大きな注目を浴びております」
「賃金の動きが、今月上がった、下がった、どのぐらい上がったと注目されている中で、いきなり過去の3年間に遡って変わってしまったために、一部では、人騒がせな統計だとか、サプライズだとか、毎月勤労統計ショックだとか、いろいろな言葉で大変騒がれたというか、いろいろな御意見を各方面からいただくようなことになりました」
「アベノミクスの成果」「いろいろな御意見を各方面からいただくようなことになった」──。これらの言葉からも、厚労省が安倍官邸の顔色をうかがって統計手法を変更しようとしていたことが、よくわかるというものだろう。
だが、結果としてこの検討会は、厚労省の思惑通りには運ばなかった。検討会は2015年6月にはじまってわずか6回、9月16日に終了してしまっている。しかも後半3回分の議事録はいまだに公開されていないのだが、最後の会合の資料である「中間的整理(案)」には〈サンプルの入れ替え方法については、引き続き検討することとする〉などと書かれており、座長代理を務めた横浜市立大学の土屋隆裕教授も東京新聞の取材に「最終会合ではさらに検討が必要という意見が多かった」「あと数回は議論が必要だと思った。検討が不十分なままでは適切な政策にはつながらない」と話している。