虐待の被害者が必ず加害者になるわけじゃない、必要なのは他者のサポート
『知っていますか? 子どもの虐待 一問一答』(解放出版社)のなかで臨床心理士の村本邦子氏はこのように解説している。
〈「虐待の連鎖」というのは、虐待の加害者のなかには、かつて虐待の被害者だった者が多いという事実を示しているだけだということです。その逆は、必ずしも正しくありません。つまり、虐待の被害者が、必ず虐待の加害者になるわけではないのです〉
「虐待の連鎖」というのは起こる可能性はある。しかし、虐待を受けた過去があるからといって必ずしも暴力を振るうようになるとは限らない。
それは、「他者のサポートの必要性」を意味するデータでもある。
本のなかで村本氏は、精神分析家のアリス・ミラーによる「共感してくれる他者を得て、子ども時代の真実をあるがままの姿で認め、その結果、自分の感情に起こることをしっかりと見る、それだけで、多くの悲劇が避けられるはずだ」との発言を紹介している。
子ども時代のつらい記憶と向き合うことで、抑圧された感情を解放させることができるし、そうすることで「暴力」を介さない親子関係・人間関係のあり方を習得することができる。
ただそれは、虐待を受けた過去をもつ人にとってはとてもつらい作業であり、ひとりの力ではとてもできる作業ではない。村本氏は前掲書のなかでこのように呼びかけている。
〈真実と向き合うのは、勇気のいる、とてもむずかしい作業です。友人でも、パートナーでも、カウンセラーでも、誰でもよいのですが、共感し、支えてくれる他者の存在がどうしても必要になってきます。信頼して、つながれる人びとをさがしましょう。それができれば、何もおそれる必要はありません〉
つまり、虐待をなくすためには、親と子だけの問題に封じ込めず、社会が手を差しのべ、子どもだけでなく親をもサポートすることも必要なのだ。児童相談所は、虐待に苦しむ子どもにとっても、子どもとの向き合い方に悩んでいる親にとっても、有益なアドバイスとサポートが得られる場である。その存在は「虐待の連鎖」を断ち切るために大きな力を発揮する。
しかし、松嶋のような差別的な考えのもとでコミュニティから爪弾きにするような扱いをすれば、「虐待の連鎖」は永遠に続いていくだろう。