治安維持法の運用実態が物語る共謀罪=組織犯罪処罰法の恐ろしさ
そもそも治安維持法は当初から条文が曖昧で、当時の帝国議会でも懸念の声があがっていたが、これを拡大解釈して運用した結果、その解釈に都合がよいように法改正を繰り返していった。
この経緯を聞いて、想起されるのは、昨年、安倍政権が成立を強行した共謀罪こと改正組織犯罪処罰法だ。
思い出してもらいたいが、国会審議のなか当時の金田勝年法相は、それまで処罰対象を「組織的犯罪集団」に限るとしていたのを一変させ、「組織的犯罪集団の構成員ではないが、組織的犯罪集団と関わり合いがある周辺者」ということで「処罰されることもありうる」と答弁(2017年6月1日参院法務委員会)。まさに治安維持法の拡大運用を決定づけた目的遂行罪と同じしくみだが、金田法相はこの答弁をした翌日の衆院法務委員会で、治安維持法の認識について「当時、適法に制定された」「刑の執行により生じた損害を賠償すべき理由はなく、謝罪及び実態調査の必要もない」と開き直りさえ見せていた。
共謀罪が「平成の治安維持法」と呼ばれている理由はまさにこの適用の恣意性が重要なのだが、こうした“法案を一度制定してしまえば適法”と開き直る法務大臣答弁や、国内だけでなく国連の特別報告者からも強い懸念が示されたなかで成立を押し切った安倍首相の姿勢からは、戦前の言論弾圧や恣意的逮捕への反省はまったく感じられない。いや、それどころか、戦前の特高警察に倣い、まさに法の濫用によって人々の言論を封じ込めようとしているとしか思えないだろう。
実際、共謀罪の成立には、警察庁などの当局からの強い要請があったと言われているが、いまや“安倍官邸の謀略機関”となっている内閣情報調査室(内調)のトップ・北村滋内閣情報官は、警察関係者向けに出版された『講座警察法』(立花書房)第三巻のなかで、戦前・戦中の特高警察や、弾圧体制を生んだ治安維持法に代表される法体系を高く評価している(過去記事参照https://lite-ra.com/2016/09/post-2553.html)。