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ブラ弁は見た!ブラック企業トンデモ事件簿100 第17号

壮絶なパワハラで心を壊された広告会社社員 「死にたい」と口にした夫に妻は…パワハラ被害者家族の手記

3回目の自殺を考えたAさんに、妻は「もう、がんばらなくていいよ」

 2013年12月、Aさんの言動や業務の進め方が思い通りにならないことに業を煮やしたSは、「今までのお前のミスやルール違反を上に知らせず、俺のところで止めているから、辛うじてお前の首は繋がっているんやぞ!お前のミスを明らかにしてやろうか!今までのミスを俺が明らかにすれば、お前クビぞ!脅しじゃなかぞ!リーチかかっとるんやぞ!」と叱責し、Aさんのクビを示唆した。この時Aさんは、1回目の自殺を考えた。

 2014年7月初旬、Sは、スケジュールを即答できなかったAさんに、「何度言っても『わかりました』という返事ばかりだ!お前は素直なフリをしているが、素直そうなその返事も俺には嘘としか思えない!嘘をつく奴に仕事は任せられない!毎日のスケジュールミーティングからお前は外す!スケジュール管理という業務をさせんということは、それ相応の処遇になるということやからな!覚悟しとれ!」と叱責し、再びクビを示唆した。この時Aさんは、2回目の自殺を考えた。

 2014年7月11日、Sは、Aさんへの叱責がエスカレートし、いつもにも増して酷い暴言を吐いた末、「今後もうお前の報告は聞かん!勝手にやれ!俺は知らん!何かあれば、お前が全責任を負え!」と言った。その後AさんはSに、営業との打合せ結果を報告しようとしたが、Aさんが「すみません」と言い終わらぬうちに、Sは「知らん!聞かん!」と大声で拒絶した。Aさんは「いよいよ本当に愛想を尽かされた。見捨てられた」と絶望を感じ、3回目の自殺を考えた。そして帰宅後、明らかに精神が崩壊しているAさんに、妻が泣きながら「もう頑張らなくていいよ」と言葉をかけ、休職に至るのである。

 休職開始から1年が経過した2015年7月、会社はAさんを、「休職期間が満了しても職場復帰できていない」と解雇した。Aさんは労災申請し、2016年1月、長崎労基署はAさんの精神疾患を、パワハラによる労災であると認めた。現在Aさんは、会社に対し、解雇無効の請求、パワハラの慰謝料請求、残業代請求(Aさんは、月平均60時間の残業をしていたが、会社は1円の残業代も支払っていなかった)等の民事訴訟を起こし、審理中である。

 幸い、Aさんが自殺せずにすんだのは、相思相愛の妻が異変に気づき、危険を察し、Aさんが仕事に行くことを無理にでも止めたからである。しかし、Aさんは心に深い傷を負い、今でも働くことができず、夜もよく眠れず、眠れたとしても会社の夢を見て酷くうなされ、自分の呻き声や悲鳴で飛び起きる日々である。妻は、Aさんが自殺するのではないかと心配で、ひとときも目を離せないでいる。毎日のように潰され削られてきた自尊心や自信を、Aさんが回復するには、長い時間がかかるだろう。職場でのパワハラは、わずか1年半で、簡単に、1人のごく普通に生きてきた人間を壊し、家族の人生を狂わせてしまうのだ。

(中川拓/諫早総合法律事務所 http://isahayasogo.web.fc2.com/index.html

【関連条文】
パワハラの違法性 民法709条
パワハラについての会社の責任 民法715条、労働契約法5条
労災の補償 労働基準法75条以下、労働者災害補償保険法
労災で療養中の解雇の禁止 労働基準法19条

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ブラック企業被害対策弁護団
http://black-taisaku-bengodan.jp

長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。


最終更新:2018.07.03 12:15

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