ちなみに、矢野官房長と安倍官邸の関係については、安倍官邸の代弁ジャーナリスト・田崎史郎氏もこう明かしている。
「安倍は新内閣発足に当たり、首相秘書官に財務省が推薦した人物を拒否し、官房審議官だった中江元哉を引っ張った。安倍が財務省出身秘書官の候補に描いていたのは中江と、主税局総務課長だった矢野康治の2人。安倍が中江を起用したため、官房長官・菅義偉は矢野を官房長官秘書官に据えた。
ポイントは財務省が送り込んだのではなく、安倍も菅も財務省から自分が信頼する人材を“一本釣り”したことだ。これまでは財務省が推薦する秘書官をそのまま使うことが多かったが、官邸人事の初っぱなから財務省の思い通りになっていないのがこの政権の特徴だ」(「現代ビジネス」2013年2月11日)
つまり、いま安倍政権が抱えるあらゆる問題に共通する官邸の人事掌握による官僚支配の象徴のひとりが、矢野官房長なのだ。
そして、この古賀茂明降板事件を思い起こせば、「なぜ、テレ朝は自局でセクハラを報道しなかったのか?」なる批判が、いかに愚問かわかるだろう。できるわけがないのだ。
この古賀氏降板事件以外にも、古舘伊知郎の報ステ降板、『朝まで生テレビ!』のゲスト論客ドタキャン事件、選挙報道への“公平圧力”など、テレビ朝日にはこの間、安倍官邸から陰に陽に数々の報道圧力がかけられている。
先日深夜にセクハラ公表会見を行った篠塚浩報道局長も、昨年の加計報道が盛り上がる最中の5月に早河洋会長とともに安倍首相との会食に参加、政権批判を牽制されたことがある。
テレ朝の会見以降、ネット上では被害者の女性記者とされる実名や画像がさらされセカンドレイプとも言うべき卑劣な個人攻撃がなされているが、彼女がセクハラを相談した上司とされる人物の名前や画像もあげられ、攻撃の対象となっている。
しかし、これまでの安倍官邸からテレ朝への圧力の数々を見れば、直属の上司レベルが報じようとしたところで、上層部の横やりで潰されていたのは火を見るより明らかだ。
もちろん、これはテレビ朝日に限ったことではない。TBSでもNHKでも岸井成格氏や国谷裕子氏が降板させられたり、NHKでは前川喜平・前文科次官のインタビューがお蔵入りになったり、萩生田光一筆頭副幹事長(当時)の選挙報道をめぐる圧力文書は在京キー全局に送られた。ほかの局の記者が被害者だったとしても、結果は同じだろう。いや、テレビ朝日のように事後的にも公表することすらできなかった可能性のほうが高い。