内田康夫『遺譜 浅見光彦最後の事件』(KADOKAWA)
今月13日、作家の内田康夫氏が敗血症のため都内病院で逝去していたことがわかった。83歳だった。
内田氏といえば、代表作「浅見光彦シリーズ」をはじめとした推理小説作家の大御所だが、彼の作品は時に「ミステリー」の枠を飛び越え、政治社会や歴史などに踏み込んでいくことでも知られている。
たとえば、2014年に出版された『遺譜 浅見光彦最後の事件』(KADOKAWA)では、かつてヒトラーユーゲントの随行で来日したドイツ人により日本側に渡されたフルトヴェングラーの楽譜を発端に、第二次世界大戦中の日本やドイツにまつわる暗い歴史が描写されていた。
この作品の執筆にあたり内田氏は三度にわたりドイツを訪問しているが、そこで彼は、日本とドイツとの間にある歴史認識の違いを痛感したと語る。しんぶん赤旗日曜版2014年9月21日号に掲載されたインタビューで、内田氏はこのように述べているのだ。
「取材すると、ナチスのユダヤ人弾圧の歴史もあって、戦争史をきちんと教えている。ドイツ人は歴史認識が深いです。それに比べて、日本は戦争をどれだけ教科として教えているのか。戦争に対する姿勢が、日本とドイツとでは違う感じです。ユダヤ人の強制収容所へも行きました。公開の仕方が行き届いていましたね」
さらに、内田氏はこのインタビューで、安倍政権が当時、進めようとしていた安保法制について、このような真っ向批判を行っていた。
「全然間違っていると思います。これまでは憲法のもとで手かせ足かせをつけて自衛隊が存在してきたんですが、集団的自衛権の行使容認で海外派兵も可能にしてしまう。これをやっちゃっていいのかなあと、ひとりの国民として思います。大多数の人はそう思うのではないでしょうか。それにもかかわらず政治が先行する。この状態は怖いです」
「憲法の解釈が時の政府の意向で変わるのは、誰が考えてもおかしい。これはイデオロギーに関係なく変ですよ」