「そういうところも含めて、なんというか、平匡という役はみんながたとえば『頑張れ! 頑張れ!』っていう応援したくなる役だとは思うんですが、すごくステレオタイプなオタクだったりダメなやつっていうことではまったくないんだと思っていて。演じる上では、たとえば茶化して演じたりとか、コメディではあるんですが、ベロベロバーみたいなそういうお芝居は絶対にしないようにしようと思っております。とても真面目に生きているだけなのに、社会とのズレで笑いが起きてしまう。社会とかみんなの中の常識とちょっとだけズレているために笑いが起きてしまったり、微笑ましかったりするという。そういう風に演じさせていただいております」
もちろん、それは他のキャラクターにも共通している。とくにアラフィフ高齢処女という設定をもつ百合に関しては、原作漫画のなかで読者からかなりの反響を巻き起こしたそうだ。海野つなみは前述の特別番組でこのように語っている。
「結構本当に第一話を描いた時にすごい読者さんから悲鳴がいっぱい来て。なんか『もう海野先生、なんていうものを描いてくれたんですか。ひどい』みたいな感じで。でも、それから話が進むにつれて百合ちゃんがそれを特に引け目に思っているというわけでもなく普通に楽しく充実して暮らしているのを見て、みんなが『悲惨な女として描かれているんじゃなくて、普通に生きている楽しい女性として描いてくれているので、私も百合ちゃんみたいになりたい』みたいな方に読者さんからの声が変わっていったので。だから、『よかった』みたいに思いましたね」
もちろん作中ではそういった事情に思い悩む場面も描かれるのではあるが、百合のネガティブな側面ばかり強調される類型的な描き方ではないがゆえに、彼女が抱える苦悩がよりリアルで切迫感のあるものとして感じられるのは間違いない。
それは百合以外のキャラクターにも言えることであり、第7話に登場した、「沼田さんって鋭い方だと思っていました。男性と女性のどっちの視点ももっているから」といった平匡に対して周囲の人間が「違うと思いますよ。沼田さんはただ、沼田さんなんですよ」と返すシーンもまさしくそういった物語の根幹のテーマに触れるシーンである。風見が自分の容姿ゆえに誤解されがちなことに悩むくだりも、人をレッテル貼りして分かった気になるのではなく、その人自身を理解するよう努めてコミュニケーションすることの大切さを見る人に伝えている。
実は、以前にも星野源はこのドラマの伝えるメッセージを、人に対する安易なレッテル貼りへのアンチテーゼであるという旨を語ったことがある。それは、先月28日深夜放送『星野源のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)でのことだった。
このラジオがオンエアーされる直前はちょうどドラマの7話を放送している時期だった。その7話は、みくりが平匡に抱きつきながら「いいですよ、そういうことしても。平匡さんとなら」と思い切った告白をするも、平匡は自分に女性経験がないことを彼女に知られることを恐れ「無理です。そういうことをしたいんではありません。ごめんなさい、無理です」と拒絶したことで大きな話題を巻き起こした回だ。