陳述書に「口がくさい」「家族自慢が気に障る」「目つきが怖い」とただの悪口
例えば、派遣労働者が雇止めを争った労働審判で、同僚の陳述書に、
「○○さんが、有休で海外旅行に行った話をしていたのが聞こえてきて不愉快でした」
「お子さんや旦那さんの自慢をするのが気に障りました」
「近くで話したときに口がくさかったことがあります」
とか。労働者としての適格性に関することとか、業務に具体的にこんな支障が生じたとか、もっと他に書くべきことがあるのでは……。
紛争が生じてから、当該労働者に何かよくない点はなかったのかと強引に「あら探し」をした結果だと思われるが、もちろん、単なる不快感が雇止めの有効性を根拠づけるものではない。署名押印している同僚よりも、そんなかたちの協力を従業員に求めている会社の姿勢のほうが窺い知れるというものである。
他の解雇事件でも、
「店長(※その労働者は店長でした)の目つきが怖く、威嚇しているように感じました」
といった言いがかり的なものから、
「今回、○○さんが解雇に納得できずに労働審判を申し立てたと聞いて、何という恐ろしいことをするのかと思いました」
と、もはや解雇の有効性と何一つ関係ない、当該労働者が解雇された後のあなたの気持ちを延々書かれても……といったものまで、実に様々なバリエーションがある。
なお、ここに挙げた事件についても、程度の差こそあれ、すべて労働審判において調停(和解)が成立し、会社側から解決金を支払ってもらうかたちで解決している。
ある使用者側の弁護士から、「陳述書は裁判所に宛てて出しているというよりも、労働者の気持ちをくじくために出している」といったことを言われたことが本当にあるが、法的に意味のない、もはやただの悪口ではないか、といった陳述書が5通も6通も7通も出てくるのは、勘弁していただきたい。
誰が言ったか、「裁判や交渉は、喧嘩するためにするのではない、喧嘩を収めるためにするのだ」という言葉もある。
いつかはお互い拳を下ろし、それぞれの人生が続いていく。そのときのためにも、むやみに戦線を拡大させないほうがいいんじゃないの……と思うのである。
(中村里香/北大阪総合法律事務所 http://www.kitaosaka-law.gr.jp)
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■ブラック企業被害対策弁護団
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長時間労働、残業代不払い、パワハラなど違法行為で、労働者を苦しめるブラック企業。ブラック企業被害対策弁護団(通称ブラ弁)は、こうしたブラック企業による被害者を救済し、ブラック企業により働く者が遣い潰されることのない社会を目指し、ブラック企業の被害調査、対応策の研究、問題提起、被害者の法的権利実現に取り組んでいる。
この連載は、ブラック企業被害対策弁護団に所属する全国の弁護士が交代で執筆します。
最終更新:2018.07.03 11:07