ヘイトスピーチ、難民問題にも強い関心を示す美智子皇后、一方トランプは…
事実、前述の「誕生日文章談話」のなかで美智子皇后は、核軍縮以外にも、〈心に懸かること〉として、自然災害や原発事故からの復興とともに、〈奨学金制度の将来、日本で育つ海外からの移住者の子どもたちのため必要とされる配慮〉をあげ、外国からの移住者とその子孫に対する政治状況に懸念を示していた。
とりわけ、天皇・皇后が以前から在日外国人に対するヘイトスピーチの問題に心を痛めていたことは、皇室に強い記者のいる週刊誌などでも報じられてきたことだ。一方のトランプといえば白人至上主義をむき出しにし、国際的に強く批判されてきた。皇后は、日本国内だけでなく、国際社会を牽引するアメリカ大統領の排外主義についても強く憂いているとみられる。
また皇后は、〈米国、フランスでの政権の交代、英国のEU脱退通告、各地でのテロの頻発〉とトランプ大統領誕生にも触れたうえで、日本人女性として初めて国連事務次長・軍縮担当上級代表に就任した中満泉氏について、〈国連難民高等弁務官であった緒方貞子さんの下で、既に多くの現場経験を積まれている中満さんが、これからのお仕事を元気に務めていかれるよう祈っております〉と述べた。
中満氏はアメリカの大学院を卒業後に国連入り。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に志願し職員としてのキャリアを積んできた叩き上げで、難民支援や民族紛争の解決に従事してきた。毎日新聞2017年4月23日のインタビューでは、師と仰ぐ緒方貞子氏から学んだことについて、このように語っている。
「湾岸戦争(1991年)勃発時、イラクのクルド人がトルコとイランに脱出した。トルコは当時難民を受け入れていなかったので、クルド人たちは国境近くに足止めされていた。私はUNHCRのトルコの事務所から先遣隊として通訳なしで1人で現地に入りました。カラフルな民族衣装を着たクルド人の女性たちが雪の残る山の急斜面にテントもなく着の身着のままでいて、凍死する者もいた。衝撃だった。今でも鮮明によみがえります。緒方氏は着任して2週間でした。国境を越えていない避難民は支援対象ではないとの反対論もあったが『助けないわけにはいかない』と判断して援助を決断した。前例を踏襲せずに決断できるのがリーダーシップだと思います」
もともと皇后は、2014年にも難民支援や地雷対策活動を展開する国際NGO「難民を助ける会」のチャリティコンサートを鑑賞するなど難民問題への関心も強く、中満氏のこうした姿勢を高く評価しているとみられている。その目から見て、トランプの難民受け入れ停止政策や特定宗教への攻撃は、眉間に皺をよせるものであることは間違いないだろう。皇后が中満氏と以前から面識があったにせよ、アメリカの政権交代など世界情勢の変化のなかで中満氏のキャリアを踏まえた「誕生日談話」は、難民受け入れを放置している安倍政権はそうだが、トランプ大統領の難民排除政策も念頭に置いていたはずだ。