松尾貴史はそういった状況を危惧し、連載している新聞のコラムでこのように綴っていた。
〈トランプなんて大変な人物が大統領になるなんてアメリカは大変だ、などと言っている人があるが、私は日本のほうが深刻なのではないかと感じている。もちろん、日本のトランプの悪影響は言うに及ばずではあるけれども、それより日本には、メリル・ストリープがいない。彼女のような力強い発言を、権力者に対してぶつけることができるスターがいない。よしんばいたとしても、黙殺されてしまうことが多い。そういう意味で、アメリカのアーティストにはこういう機会が与えられることは羨ましいところである。
彼女のみならず、ロバート・デ・ニーロやジョージ・クルーニー、リチャード・ギアなど、自身の信条に基づく政治的な発言をする俳優は多い。彼らは、現役で大作の主演を張る人たちだ。アメリカだけではなく、おそらくほとんどの民主国家の役者は皆そうなのだろう。そういう意味では、日本のスターたちに奮起して「本音」を表明してもらいたいところだが、なかなかにいろいろなしがらみがあって窮屈な状態に陥っているのが現状だろう。
日本のスターたちに奮起して「本音」を表明してもらいたいところだが、なかなかにいろいろなしがらみがあって窮屈な状態に陥っているのが現状だろう。
芸能人が政治的な発言をすることは、「スタイリッシュではない」と思われているこの風潮は、解消していかなければならないのではないか、と感じる。発言力を与えられているからこそ、公益に努めるべきなのではないだろうか。こんな浮草稼業で社会から認知されているこのありがたさを考えても、役者の一つの使命でもあると思うのだが〉(17年1月15日付毎日新聞)
もちろん、いまの日本にも勇気ある表現を行っているアーティストやタレントはわずかながら存在する。しかし、すぐに「芸能人のくせに」「タレントがえらそうなことをいうな」という批判が殺到し、ほとんどの人が口をつぐんでしなうのが現実だ。ましてや、スーパーボウルのような国民的なイベントでレディー・ガガのようなメッセージを発信するのなんて、ありえない話だろう。
政権与党や官邸、そして安倍応援団のネトウヨたちがマスコミに対して有形無形の圧力をかける事態は、残念ながら今後も変わらないだろう。だからこそ、坂本龍一が指摘しているように、音楽・映画・小説・絵画などの力はより大きくなっていく。日本でも、レディー・ガガやメリル・ストリープのように骨のある表現を貫くアーティストが一人でも増えていくことを願う。
(新田 樹)
最終更新:2017.11.16 04:31