自民党による憲法改正草案では、家庭生活における個人の尊厳と両性の本質的平等を保障する現行の憲法24条の最初に、《家族は、社会の基礎的単位として、尊重される》《家族は、互いに助け合わなければならない》という条文が加えられている。同時に13条では「個人の尊重」が「人の尊重」に置き換えられていることからもわかるように、自民党の改憲案では個人の尊厳よりも家族を優先させているのである。
この改憲内容の「本音」は、安倍首相のブレーンのひとりであり、改憲を後押ししている極右団体・日本会議の政策委員でもある伊藤哲夫氏の発言によく表れている。伊藤氏は今年9月に開かれた講演会で、このように述べたという。
「個人の尊重や男女の平等だけでは祖先からの命のリレーは途切れ、日本民族は絶滅していく」
現行の24条のままでは日本民族が絶滅する。……日本における男女平等なんて世界のランキングでも111位(2016年、世界経済フォーラム)という最悪の状態なのに、何をムキになっているのかと思うが、それほどまでに24条は目の敵にされているわけだ。
だが、この24条は、現在の自民党憲法改正草案が発表される以前から、保守派を中心に改憲すべきと槍玉にあげられてきた。
たとえば、「日本会議国会議員懇談会」が設置した「新憲法制定促進委員会準備会」(準備会)が2007年に発表した「新憲法大綱案」。これは古屋圭司・元国家公安委員会委員長や、萩生田光一・現内閣官房副長官、稲田朋美・現防衛相、加藤勝信・現一億総活躍担当相といった「安倍首相に近いメンバー」によって当時つくられたものであり、安倍首相の意向がもっとも如実に反映されていると思われる。
そのため、安倍首相が24条をどのような意図で“改悪”したいと考えているのかが、憲法改正草案よりもさらにわかりやすく書かれている。
《祖先を敬い、夫婦・親子・兄弟が助け合って幸福な家庭をつくり、これを子孫に継承していくという、わが国古来の美風としての家族の価値は、これを国家による保護・支援の対象とすべきことを明記する》
つまり、「介護や介助はもちろん、生活の困窮といった扶助は家族内で助け合って何とかしろ。それ以外の“不幸”な家族は保護や支援しないから」と言っているようなものだ。この家族主義の考え方には、「個人の尊厳」や「男女平等」の概念は微塵もない。