この事件を報じた沖縄以外のメディアは、ブロック紙である東京新聞が23日付の「こちら特報部」が〈警察 報道の自由侵害〉というタイトルで大々的に報道。あとは地方紙の信濃毎日新聞や高知新聞が社説で事件を取り上げ、〈取材活動の妨害であり、見過ごすわけにいかない。(中略)経過を説明して責任の所在を明らかにするよう、政府に求める〉(信濃毎日新聞)などと政府の姿勢を糺した。
だが、その一方で大手メディアは 22日付で共同通信が短く報道したのみ。24日現在、読売や産経はいわずもがな、朝日や毎日までもが一行も記者拘束の事実を伝えていないのだ。
本来ならば、報道の自由を脅かす事件が起これば、保守もリベラルも関係なくペンで抗議を展開するべきだが、今回はそうした動きもなく、しかもリベラル寄りの朝日や毎日でさえ沈黙する。──これは一体、何を意味しているのか。
それは、“中央”のメディアがいかに沖縄を軽んじているという現実だ。いま、高江で起こっていることは、一地方の市民運動などではない。選挙によって再三示してきた「基地はいらない」という沖縄の民意に対し、時の政権が牙を剥き出しにし、ためらいもなく民主主義を徹底的に破壊しにかかるという、とんでもない暴走が繰り広げられているのである。
現に安倍政権は、約150人の住民しかいない村に全国から500人以上の機動隊を集結させ、米軍属による女性暴行殺人事件後の防犯パトロールとして派遣した防衛省の約70人の職員を高江の反対派市民の警備に就かせている。さらに抗議の現場では、昨日も70代の女性が押し倒され後頭部を打ち出血、救急車で搬送され、40代の男性は5〜6人の機動隊員に囲まれた挙げ句、公務執行妨害で逮捕された。他方、同じ日に安倍政権は参院選で落選した島尻安伊子前沖縄担当相を大臣補佐官に任命した。
公然と警察が暴力をふるい、不当な弾圧を続け、ついには報道の自由も認めない……。このように民主主義が奪われた“最前線”で何が起こっているのかを伝えないということは、結局、中央の大手メディアも政府と同じく「沖縄は我慢しろ」と強いている証左だろう。
昨年、菅義偉官房長官の質問の中で、時事通信社の記者がこんなことを言った。記者は、那覇空港第2滑走路建設事業の工期短縮に“協力しない”沖縄県議会を「国として見限っていいような気がする」「そんな連中はほっといてもいいと思う」と述べたのだ。
「そんな連中」「国として見限ればいい」。中央の大手メディアで胡座をかき、「公平中立」などと言いながら政権の顔色を伺う記者たちは、この時事通信社の記者と同じような気持ちで沖縄を捉えていたのではないか。だからこそ、報道の自由の危機にもっとも敏感に反応しなくてはいけない時に、ペンを握ろうとしない。それどころか政府と同調し沖縄いじめに加担する。そんなふうにしか思えない。
大手メディアのこうした態度もまた、この国がいかに民主主義の危機的状況にあるのかを伝えているのである。
(水井多賀子)
最終更新:2016.08.25 07:04