〈本来の目的である技能の教授や育成が行われない仕事に従事させられ、中には依然として強制労働の状態に置かれている。職を得るために最高で1万ドルを支払い、実習を切り上げようとした場合には、数千ドル相当の没収を義務付ける契約の下で雇用されている。技能実習生のパスポートやその他の身分証明書を取り上げ、技能実習生の移動を制限する雇用主もいる〉
この報告はけっして極端なものではなく、実態をかなり正確に指摘していると言えよう。実は、この制度を利用して来日した実習生がこの劣悪な条件に堪えられず、大量の失踪者となっている現実があるのだ。
「政府統計によると、昨年末現在で、20万人近い実習生のうち1年間で6000人が実習先から失踪し、不法滞在者になっている。こんな実態がありながら、制度改正してさらに受け入れを図ろうというのだから、開いた口がふさがりません」(前出・大学教授)
しかも、外国人実習生が劣悪な労働条件に晒されていることや、失踪した事実も知らされていない自治体が山ほどあるようだ。
外国人実習生の受け入れはすでに全国的に広がっている。先月報じられた共同通信の調査結果によると、外国人技能実習生を住民登録している自治体は1240市区町村に上り、全国の80%近くに上る。ところが一方で、全体の42%の市区町村が技能実習生の待遇改善を要望しているという、なんともちぐはぐな結果になっているのだ。
「ほとんどの自治体に外国人実習生が住民登録されているのに、肝心の実習生は受け入れ企業が囲うようにして借り上げアパートなどに住まわせているから、どんな暮らしぶりなのか、自治体側はさっぱり分からないようだ。技能実習生がひどい処遇を受けていると噂で聞き及んでも、なかなか手出しできない状況にあり、困惑ばかりが広がっています」(前出・大学教授)
国内にいる実習生の労働条件や人権を守る施策が最優先課題なのに、安倍政権はこんな状況下で、実習生をどんどん増やそうとしているのである。
先に紹介した米国の国務省人身取引監視対策部のレポートは、安倍政権がいま進めている制度改革が「まやかし」であることもはっきり指摘している。
〈日本政府は包括的な見直しを行うとともに、強制労働の加害者を処罰する能力を有する第三者管理・監督機関を設置し、移住労働者の救済制度を改善する改革法案を国会に提出した。しかし、政府は、法の大きな欠缺を埋め、それにより人身取引犯罪の訴追を推進するという法整備や制定は行わなかった。労働搾取目的の人身取引の申し立てにもかかわらず、政府が訴追または有罪にした強制労働の加害者はいなかった。2013年以降、訴追および有罪判決の総数は減少した〉
ところが、日本の大手メディアはこうした実態を無視し、技能実習制度の見直し論議にまともに与しようとしない。政権はもちろんだが、マスコミまでが戦前並みの国益重視、人権軽視体質に戻りつつあるということだろうか。
(小和田三郎)
最終更新:2016.08.20 06:59