「私自身の調査経験から言えば、大麻の依存性は他の薬物と比べて非常に軽く、おだやかです。禁断症状としては不眠、食欲不振などで、1週間くらいすれば自然に消えてしまう。ほとんどの大麻常習者はきちんとした治療を受けなくても止めることができます」
また、大麻解禁の話題になると必ず俎上にあげられる問題に、大麻使用がその後、コカインやヘロインなどのハードドラッグ使用への入口になってしまうとする「ゲートウェイドラッグ」理論があるが、これも現在は根拠のない理論とされている。矢部氏は本のなかで、14年7月30日付「ニューヨーク・タイムズ」紙も、これまで大麻を使用した経験のある1億1100万人のうち、その後にヘロインの使用にまで薬物濫用癖が発展したのはわずか4%であるとの調査結果を発表していると綴っている。
ただし、では、大麻がまったくの無害といえば、そうも言い切れない。タバコやアルコールと同じく大麻も、脳が発達する時期である10代の子どもたちが使用すれば健康リスクに発展する可能性があることは多くの研究者から指摘されているからだ。医療用大麻に関する議論ではこの点は考慮に入れておく必要があるだろう。
以上のように、大麻が「悪魔のドラッグ」であるという理解はいまや単なる偏見であり、大麻をうまく活用することは医療的に大変価値がある。特に、高血圧などの慢性疾患を緩和させ処方薬を減らすことができる効果は、超高齢社会に突入している日本にとって非常に意義深いだろう。
しかし、前述したように、現在の日本においては、医療用大麻の研究をすることすら厳しく制限されており、国内で研究開発を進めることはできない。よって、日本企業も現在では海外で研究を進めるしかなく、大塚製薬は07年に前述のGW製薬と提携したが、アメリカで大麻成分を使った癌性疼痛治療薬の販売に向けて臨床試験などを行っている。
このように、日本においては医療用大麻の研究は他国から遅れをとってしまっている現状がある。他方、盛んに報道されているように、アメリカにおいては医療用大麻のみならず、嗜好用大麻も次々と解禁。コロラド州などいくつかの州では合法化、また、その他いくつかの州でも28グラム以下の所持であれば逮捕されない非犯罪化がなされている。それにともないオバマ大統領は「私も子供の頃、吸ったことがある。悪い習慣という点では長い間吸っていたタバコと大差ない。アルコールより危険だとは思わない」と発言するなどしている。
ところが、日本では未成年のスノーボード選手が海外で大麻を吸ったというだけで、全日本スキー連盟から競技者登録の無期限停止の処分を科せられる始末だ。彼らが大麻を吸ったのは、嗜好用大麻も合法化されているコロラド州でのこと。確かに、未成年で吸ったのは違反だが、それにしてもあまりにも厳しすぎるペナルティーと言わざるを得ない。
日本においてもアメリカのように嗜好用の大麻使用まで認めるべきか否かは議論の分かれるところだが、少なくとも、医療用大麻解禁への門戸を現在のように固く閉ざしたままでいるのは国民の健康にとって明らかにマイナスだ。無根拠な道徳主義から目をさまし、一刻も早い医療大麻の解禁を望みたい。
(新田 樹)
最終更新:2016.08.05 06:41