防衛大学校の学生は入学と同時に防衛省の職員とみなされ、入学金・授業料約250万円が免除されるほか給料も支給される。毎年数人の任官拒否者は出るが95%以上は幹部自衛官候補として任官する。今年は全卒業生419人で任官拒否が47人。拒否者が10%を超えるのは異例中の異例だ。しかも、これでも、数字を低く抑えたのだという。防衛省担当記者が解説する。
「実は、もっと多くの任官拒否者が出ると聞いていました。ところが、今年の卒業生は『集団的自衛権第1期生』といわれ世間の注目が集まっていた。任官拒否が急増すると政権批判の材料になりかねないので、官邸からの指令もあって例年に比べて引き止め工作が凄かったんです。中には教官が10人がかりで説得したという話もあるほど。もっとも、この段階で説得されて自衛官になってもすぐに辞める可能性が高いので、結果は同じことなんです。47人は氷山の一角に過ぎません」
表に数字が出てこないのであまり知られていないが、防大卒業後1年もしないうちに自衛隊を離れ、民間企業に転職する“隠れ任官拒否”も毎年数十人はいるらしい。それが今年はさらに倍増する見込みだという。それはそうだろう。日本の国を守るために危険を顧みない覚悟はできていても、アメリカの戦略にために命を危険に晒したくないと思うのは普通だ。ましてや「安倍の私兵」になんかなりたくないというのが偽らざる気持ちだろう。
安倍は「日米同盟は血の同盟」「米兵が日本のために血を流しているのに、自衛官が血を流さないのはおかしい」と真顔で言える人間なのだ。
そんな安倍を象徴するもうひとつの事実がこの卒業式で垣間見えた。任官拒否者に対する仕打ちだ。任官を拒否した学生は正式な卒業生でありながら卒業式への出席が許されなかった(したがって、帽子を放り投げる“ハレの場”に出られなかった)。私服に着替えさせて、裏門から帰宅させたのだ。これは、第2次安倍政権の始まった一昨年からの方針なのである。当日の取材をした防衛大卒の毎日新聞記者で『自衛隊のリアル』(河出書房新社)などの著書のある瀧野隆浩氏がラジオでこう訴えていた。
「私が卒業した30年前からごく最近まで、(任官拒否者も)一緒に帽子を投げたんです。いまの世の中の雰囲気というんでしょうか。同じ防大卒業生に線を引いて分断するような。とても残念で、寂しい。コソコソ卒業させるというのは、やっぱり違うと思うんです」
つまり、“最高指揮官”である私(安倍)の支配下に入り、命を投げ出さない者は徹底的にいじめてやろうという魂胆なのだろう。だが、そんな姑息な手段を使っても「アメリカのため戦わされる」自衛官の流出が止まるとは思えない。