たとえば、2014年に安倍首相が『NEWS23』に生出演した際、街頭インタビューのVTRに「厳しい意見を意図的に選んでいる」と難癖をつけ、その後、自民党が在京テレビキー局に「報道圧力」文書を送りつけるという問題が起きたが、その後も自民党や官邸は、政治部記者などを使って同番組に圧力をかけつづけていた。
そうした圧力は、安保法制審議中に文化芸術懇話会の弾圧発言が問題になったこともあり、一時は、おさまっていたが、同法が成立した直後から再び活発化。自民党の「放送法の改正に関する小委員会」の佐藤勉委員長がテレビの安保法制報道は問題だとして、「公平・公正・中立は壊れた。放送法も改正したほうがいい」と露骨な恫喝発言をするなど、またしてもTBS やテレビ朝日への圧力を強めはじめた。
しかも、自民党および官邸は、膳場キャスターと岸井氏を徹底的にマーク。というのも、膳場キャスターは14年の総選挙特番で安倍首相に対して報道圧力問題について問い質したことに激怒したといわれ、一方の岸井氏は、自民党側は“保守色が強い記者”と認識していたにもかかわらず、そんな岸井氏が安保法制に厳しい姿勢を貫いたことで「裏切りだ」と怒り倍増。政治部を通じて「岸井をなんとかしろ」という声をTBS幹部に再三届けてきたという。
さらに、そんななかで岸井氏を個人攻撃する「放送法遵守を求める視聴者の会」による意見広告が産経・読売新聞に掲載されたわけだが、これも仕掛人は極右思想の安倍応援団の面々だった。
つまり、岸井氏は「圧力は一切ありません」と言うものの、TBSにはいろんなかたちで“官邸の怒り”が伝えられていた。その結果、岸井氏と膳場キャスターは降板させられたのだ。
事実、岸井氏とともに記者会見に出席していた鳥越俊太郎氏は、政権側からのメディア圧力、なかでも菅義偉官房長官の“手口”を、このように語っている。少々長いが、重要な話なので紹介したい。
「菅官房長官が恐ろしいのは、オープンでの台詞ではない。大臣と記者との間ではオフ懇、オフレコの懇談会というが必ずあるんですね。『これはオフレコですよ。書いちゃだめですよ』と言いながら、本音を言う、と。記者も本音が聞けるから一応、オフ懇を受け入れているわけです。
その場で、たとえば『昨日の『NEWS23』の岸井さんのあのコメントはちょっとね、いただけないよね』『あれ、ちょっと困るよ』というようなことをつぶやくわけですね。そうすると、それはオフ懇ですから表には出ませんけども、記者はちゃんとメモをして、それを上司に上げるわけです。その上司はさらに上の上司にあげて、それはどんどん上に上がっていきますから、『どうも、政府筋は岸井キャスターのコメントに嫌悪感を抱いているらしい』という空気がバッと広がるわけですね。
これはTBSだけじゃなくて、他の局もみんなそうですけども、そうすると、現場がまず反応するわけです。『ここまで言うとまた言ってくるんじゃないか』と。『この人を出したらヤバイんじゃないか』とかね。人選とか、街頭で話を聞くときもできるだけ穏当な人の話を聞くとか。それから、問題の設定でもできるだけ柔らかめにするとか。こういうふうに萎縮をしていくわけです。毅然として切り込んでくという姿勢がだんだんなくなる」