また2度目の妊娠の際には労働局雇用均等室にこれまでの経過を報告したが、しかし解決にはほど遠いものだった。
「均等室が会社の人事を呼び出し、紛争解決の援助に繰り出したが、会社は相変わらず退職強要の事実を認めなかった。均等室の担当者が人事部長に『女性が働いている職場であれば、いつだれが妊娠してもおかしくないのだから、日頃から女性健康管理制度の存在や、妊娠の不利益取り扱いの禁止など、周知徹底しなければいけませんよ』と諭したそうだが、人事部長は『間に合っています』と答えたそう。(略)それなのに、均等室の担当者はこれ以上何もできないといい、あっと言う間に打ち切りとなった。どこが紛争のお手伝いである“紛争解決援助”なのか?」
また「マタハラnet」に寄せられた実例でも行政機関の酷い実態が報告されている。
ホームセンターのパート女性が退職勧告されたため、労働局に出向いても相手にしてもらえず「裁判すると時間とお金がかかります。調停だと、調停員が他にも事案を抱えていますので、もっと時間がかかりますよ。あなただけではないのでねぇ。さて、どうしますか? 考えが決まったら連絡ください」と事実上の門前払いを喰らったケース。また労政事務所に斡旋に入ってもらったものの、埒があかず時間ばかりが過ぎてしまったケース。また東京都の女性職員が東京労働情報相談センターや東京都福祉保健総務部にも相談したが、職場と相談するよう言われただけで、何もしてくれることはなかったという。
その理由は簡単だ。法律はあっても何ら罰則規定がないため、企業は斡旋や勧告を簡単に無視するのだ。
「やっとの思いで駆け込んだ労働局雇用均等室は機能しておらず、解決には至らない状態が続いていた。司法の場にまでいくのは、ほんの一握りの女性。司法の場にいけば、会社からのセカンドハラスメント=人格攻撃などが待っている。民事訴訟となれば何年かかるかわからない」
こうした状況において、日本は現在、第一子の妊娠を機に仕事を辞める女性が6割にも及ぶという先進国としては異常に突出したマタハラ大国となっているのだ。
ただし、厚労省が15年1月に労働局に改善の通達を出したが、本書の事例はその通達前の事例だ。さらに政府は昨年末、マタハラ防止を企業に義務づける男女機会均等法と育児・介護休業法改正案を提出し2017年からの実施を目指すと言った報道もなされている。
しかし本書でも明らかなように法律が出来ても、それを運用する行政や企業の意識が変わらなければマタハラはなくならないだろう。実際、既に、マタハラと指摘されないよう別の理由を付けて解雇理由にしたり、マタハラと証明しづらい状況を作るなど、マタハラ逃れの巧妙な手口も横行しているという。
OECD加盟国の統計によれば、女性の労働への参加率が上がるほど出生率も上がるという。本当に少子化を食い止めたいなら、国や行政は待機児童問題に加えて、このマタハラ防止対策にキチンと取り組むべきではないか。
(伊勢崎馨)
最終更新:2017.11.24 09:17