「取材してくるメディアに対し「自分たちにとって有利な情報を書かせよう」というネタ提供者の意図が透けて見えることがとにかく多かったですね。「今すぐ来いや」と何十回も神戸などに呼び出されて、月に100万以上取材費に使ったんですけど、いざ取材してみたら「のっけからウソ」ということだらけでした。「お前はなんでオレたちの思い通りにならねえんだ!」と怒鳴られたこともあったり。まあ、そこまで居直られるとむしろ気持ち良い感じすらしましたけどね(笑)」
しかし、この「苛酷な板挟み状態」を生み出してきたのは、それまで続けてきたヤクザ取材のやり方にも原因があった。鈴木氏は『ヤクザ専門ライター 365日ビビりまくり日記』のなかで、こんなヤクザ取材の内幕を明かしている。
〈週刊誌でヤクザ記事を載せている週刊大衆、アサヒ芸能、週刊実話なんかは、山口組に記者の自宅住所まで提出し、つまり山口組の不利益になることは書きませんと宣言して、年末の餅つき等に入れてもらってる〉
取材対象者であるヤクザとこのようなズブズブの関係になってしまったせいで、現在これら実話系週刊誌は〈「お前はどっちの味方だ」という踏み絵を突きつけられ〉ているという。
『ヤクザ専門ライター 365日ビビりまくり日記』は山口組分裂が表沙汰になり始めたのと同じ昨年9月に出版されたものだが、鈴木氏はこの時からすでにヤクザ報道が抱える問題を指摘している。
〈俺の暴力団取材も、ぼちぼちこれまでのスタイルを変えなければならない。いまの実話誌は、完全に暴力団の支配下に置かれてしまったからだ。御用記者に徹する限り、義理場の表層的な取材は出来ても、その見返りが求められる。たとえば警察に直参が逮捕され、新聞で報道されていながら、それすら報道する自由さえ失われる。昔からヤクザにとって都合のいい部分だけ記事に書き、その反対の記事を避ける傾向は強かったが、もはや完全な広報誌になってしまった感がある。この村にいる限り、言い方を変えれば暴力団の言いなりになっている限り、もはや一種の企業舎弟と判断して差し支えない〉
ただ、現場の人間が問題を認識していながら、なかなかその取材手法を変えることができなかったのには理由がある。
〈自身、御用記者から抜け出したいとあがいてきたことは事実だが、今以上にそうしたいと願うなら、よほど腹を据えなければならぬ。暴力団のすべてから取材拒否をされるかもしれないし、恫喝はいま以上に厳しくなるだろう。極端に言えば、暴力が行使される覚悟もいる。問題は家族だ。暴力団が家族を襲撃しない、などというのは完全な幻想である〉
安全かつスムーズに取材を行うために築いたヤクザとの親密な関係。しかし、それは分裂が起きて利害関係が発生するや否や「踏み絵」となって、メディア関係者に襲いかかってきたのである。