震災直後は父親の葬儀や母親を探すことで忙殺されていたが、ある程度落ち着くと夫や子供はそれぞれ仕事や学校に戻り、ひとり家にいるとウツの状態になってしまった。そして前に進むためにも仕事に出ることにしたという。
「本当に、仕事には癒やされました。(略)来客したお客さんから慰めの言葉や優しい言葉をかけてもらえたんですね。それに、お店に出たことによって、お客さんの中に私どころではない、壮絶な体験をした人がいっぱいいることを知りました。そのことで私も、これしきのことで負けられないと思って。一からやり直していけるという気持ちになれたんです」
他にも震災前は辞めようと思っていたが生活を立て直すために再び戻ってきた女性、多くの人が仕事がない中でデリヘルという仕事があって自分の助けになったという女性、人と毎日喋れることで気分転換ができたという女性など、様々に描かれる人間模様。
震災を乗り越え、身内の死をも乗り越えようとする風俗嬢から見えるこれまでとは違った角度からの被災地、そして被災者の実情だ。
東日本大震災は多くの人々の生活や人生に甚大な影響を与え、日常を激変させ、そして心に傷を残した。一人一人が様々な事情を抱える中、現在でも問題は決して解決されたわけではない。
震災と性風俗を結びつけるこうしたルポには「不謹慎」という意見もあるかもしれないが、しかし、こうした視点からしか見えてこない現実もある。あの未曾有の災害を風化させないためにも、多角的な報道は必要だろう。
(伊勢崎馨)
最終更新:2017.11.24 08:34