こうしたことを踏まえると、安保法案をめぐって田中が「特攻隊」の話まではじめたのも無理はない。想像するに、山口は安保法案に反対する田中の意見を「理想論だ」と言い、番組内容さながらに周辺国の脅威でも語り、かつ「安倍さんは戦争しないって言ってる」と反論したのだろう。それに対して田中は、戦争になったら引き返せないこと、国のために命を奪われた特攻隊の悲劇を繰り返してはいけないのだと諭した。けれど一方の山口は、同じく番組準レギュラーの津川雅彦よろしく「特攻隊は美しい」などと言ったのかもしれない。そして結果、田中が「お前に何がわかるんだ!」と怒鳴った……。あくまで推測だが、こうした流れならば、温厚な田中が言葉を荒げた理由もよくわかる。
それにしても意外なのは、安保法案反対にここまでこだわった田中の姿勢だ。冒頭でも触れたが、爆笑問題の政治スタンスはつねに太田が示し、中沢新一との共著『憲法九条を世界遺産に』(集英社新書)を上梓するなど、9条の重要性、護憲を訴えてきた。
だが、昨年の安保法案をめぐっては、太田は反対派デモに難癖をつけたり、反政権の立場を鮮明にするアイドル・制服向上委員会にも「あれ、やらされてるんだろうなぁ」と批判。挙げ句、法案が可決されると、「安保法案ってのが通ったことによって、僕は9条護憲派ですけど、憲法改正はうんと遠のいたと思ってるんです」などと見当違いも甚だしい私見を明かしていた。しかし、相方の田中は、そんな太田とは違い、安保法案に強く反対していた……。
そう考えると、いま、権力者を嗤い、体制を風刺してきた爆笑問題“らしさ”を保持しているのは、じつは田中のほうなのでは?という気もしてくる。山口に反論したように、ぜひテレビでもその姿勢を打ち出してほしいものだが、どうだろうか。
(水井多賀子)
最終更新:2017.11.24 07:53