この問題を正面から取り上げた『テレメンタリー2015「DNA鑑定の闇〜捜査機関“独占”の危険性〜」』(テレビ朝日系/15年6月29日放映)には、警察や検察による卑劣で恣意的なDNA隠しの事例が紹介されている。
そのひとつが2012年10月7日深夜に鹿児島市で起こった17歳少女への強姦事件だった。少女はこれを警察に通報し、その2日後には自ら犯人を見つけたと通報し、Iさん(現在23歳)が逮捕された。
少女の身体や服に一切傷などはなかったが、少女の胸から検出された唾液がIさんと一致、また1台の防犯カメラには人物は特定されないが男女が歩く姿も残されていた。しかし起訴後、証拠開示が進まないことに疑念を抱いた弁護側は、まず、防犯カメラは少なくともさらに4台あるはずだとして開示を求めたが、警察と検察は「全てのカメラが壊れていた」とこれを拒否。また目撃証人がいたとされたが、検察は目撃供述などないと否定したのだ。そのため弁護側は目撃者を見つけ「カップルがいちゃついていたのを見た」との証言を得ている。
しかし一審では少女の証言は信用できるとして懲役4年の実刑が下された。防犯カメラと目撃証人を隠したとはいえ、DNAの一致という証拠が決め手となっていた。しかし、続いて行われた控訴審でDNA鑑定じたいに大きな疑念が出てくるのだ。
控訴審では弁護側が要求したDNA再鑑定に対し、検察は試料不足などで再鑑定は不能だと主張した。そこで裁判所は法医学の第一人者である日本大学・押田茂實名誉教授に鑑定を依頼したところ、その結果は簡単に鑑定ができただけでなく、Iさんとは別のDNAが検出されたのだ。しかもこれは事件直後、少女のショートパンツから検出されたものと同一だった。
もうお分かりだろう。警察と検察はIが冤罪だと知っていながら有罪にすべく数々の証拠を隠蔽したのである。このことが明るみにでれば少女の供述の信用性はなくなり、当初警察が描いた事件の構造が崩れてしまう。そのためDNAという重要証拠を隠蔽し、さらに防犯カメラは壊れたことにし、目撃証人をなかったことにした。公正でも正義でもなんでもない。自らが見立てた事件の構図にズレが生じたり不都合が出ると、こうした卑劣な捏造、証拠隠しにでる。それは現在でも、確かに行われているのだ。
しかし幸いなことに、今回は民間によるDNA再鑑定が可能だった。そのためIさんは保釈された(控訴審は継続中)が、しかし今後DNAの再鑑定が警察や検察によって独占されてしまえば、それさえ不可能になってしまうのだ。また同番組では「再鑑定のための試料を被害者に返した」とウソを付き、証拠DNAの行方が分からなくなったという悲惨な受刑者のケースも紹介されている。