この重層的下請け構造が生じる最たる理由は、除染作業が3.11以降に降ってわいた公共事業だからだろう。カネの匂いを感じ新規参入した業者も多く、原発利権のひとつと言ってもいい。そうした新規業者は重層的下請け構造の下部に食い込むため、建設業法も除染事業の制度的原則やガイドラインすら理解していないものも少なくないという。そのなかには、暴力団の息がかかった舎弟企業もあり、違法な中抜きの歯止めがかからない状況にあるのだ。
もちろん、こうした違法な業態の問題は、最終的に元請けであるゼネコンJVと事業主体である国に責任がある。だが、上位業者はむしろその違法状態を温存することで利益を上げているため改善する気はないのだと本書は指摘する。国や行政も、末端業者に責任を押し付けるだけで、抜本的な改善はいまだにできていない。
この構造化された下請け問題のなかで、作業員は、悪徳末端業者に雇われてなかなか現場に行かせてもらえず、待機を命令され、その間給与がまったく支払われないという事態も多発している。もちろん違法だ。さらには、除染現場での労災による死亡事故が起きた際にも、重層的構造により、業務内容の見直しを元請けのゼネコンや環境省などに訴えると、直接の雇用業者に目をつけられ、仕事を干されたり、現場を強制的に移動させられるようなこともあるという。
健康被害の問題も見逃してはならない。「フライデー」(講談社)13年1月25日号では、除染作業員が作業中の「大量内部被曝」を実名で告白している。福島県田村市で2ヶ月間の除染作業に従事した五嶋亮さん(23)が、作業の最終日に、作業員の前線基地である「Jヴィレッジ」で内部被曝の測定を受けたところ、元請け会社は「なぜか結果を教えてくれなかった」という。五嶋さんはねばり、「今回だけ特別」として見せてもらうことに成功。証拠として携帯電話のカメラで撮影しつつ、見てみると、測定結果用紙には一般的な原発作業員の倍以上という異常な内部被曝の数値が示されていたのだ。五嶋さんは「フライデー」でこう証言している。
「電波塔のある高台で作業していた時には、線量計が毎時12マイクロシーベルトを計測しました。そんな危険な場所なのに、マスク1枚しか支給されず自前の服を着て、毎日作業をやらされたんです。(中略)しかも私が内部被曝の数値を見せてほしいと言ったことが東電の怒りに触れたようで、上司からは後日『お前のせいで東電からクレームが来た。そんなことをするな!』と叱られました。信じられません」
五嶋さんのように、除染労働者は、内部被曝の数値も、現場の線量すら知らされないことが珍しくない。元請けの担当者は「ここは線量が低いから大丈夫」などと言うが、1日で30マイクロシーベルトも被曝した除染作業員もいたという。この杜撰な被曝線量の管理の実態は、前述の『除染労働』でも描かれていうる。2012年度の除染作業では、共通仕様書で指示されている放射線管理手帳の発行もほとんど行われておらず、なかには「元請けが放射線管理手帳は発行しないと決めている」と労働争議のなかで言い放つ業者もあったという。除染労働者に対する線量管理がいかにいい加減かよくわかる。