〈「立憲主義」、Wikipediaでは、樋口陽一先生の著書が引用されています。私は、芦部信喜先生に憲法を習いましたが、そんな言葉は聞いたことがありません。いつからの学説でしょうか?〉〈我々が憲法の教科書に使ったのは、有斐閣の法律学全集で、清宮四郎先生と宮澤俊義先生のもの。ありませんね。佐藤功先生の「日本国憲法概説」を見ていますが、「立憲主義」は、ないようです。法制局に聞くと、京都大学の佐藤幸治先生が広めたのではないかと。それならば、80年代以降でしょう〉
アンタが何年にどんな勉強をしてきたのかは関係ないし、ウィキを引く暇があったらもっと勉強しろとツッコミを入れたくなるが、いずれにせよ、知の蓄積をないがしろにして、自らの体験・経験に基づき世の中を自分の都合のいいように解釈しようという態度がアリアリとわかるだろう。これは、権威ある憲法学者の見解を頭ごなしに否定するばかりか、「学者のいう通りにしたら日本の平和が保たれたのか」(高村正彦・自民党副総裁)と、学者の存在そのものを否定し始めた安倍政権の姿勢そのものなのだ。
反知性主義の具体例としてよく引き合いに出される古代ローマでは、国民が政治に文句を言わないようにパンと娯楽を与え続けたという。これなど安倍政権が官製相場で株高を演出することで国民に文句を言わせないようにしているのとソックリだ。そして、その象徴的存在である礒崎は改憲についてこんな本音も漏らしている。
今年2月に盛岡市で行われた改憲に向けての自民党の「対話集会」でのこと。党員や支持者ら約200人を前に「来年中に1回目の国民投票まで持っていきたい。遅くとも再来年の春にはやりたい」とスケジュールを話した後、「憲法改正を国民に1回味わってもらう。『憲法改正はそんなに怖いものではない』となったら、2回目以降は難しいことを少しやっていこうと思う」と発言したというのだ。
改憲の主体は国民であるべきはずだが、この人の頭の中では国家が主体で、国民を徐々に改憲に向けて調教していこうという発想になっているらしい。パンと娯楽を与えておけば、株高さえ続いていれば、国民は文句を言わないとタカをくくっているのである。もっとも、神道政治連盟国会議員懇談会や創生「日本」、日本会議国会議員懇談会に所属している、安倍取り巻きのゴリゴリ右派だけに、当然のことかもしれない。
だからこそ、反知性主義丸出しで「立憲主義」を「聞いたことがない」「教科書に書いてなかった」などと言い切ることができるのだろう。
ちなみに、官房長官の菅義偉が先日、国会で「集団的自衛権は合憲だとする憲法学者」として3人の具体名を挙げたが、いずれも日本会議の関係者(関連団体の役員)だったことがわかっている。
安倍政権のまわりにいる、こうした知性のかけらもない偏った思想の人たちの手で、これから日本という国のかたちはどんどん変えられていくのだろう。
(野尻民夫)
最終更新:2015.06.15 11:45