発言に注目が集まっている中谷防衛相(中谷元ホームページより)
嘘とゴマカシだらけの答弁に、招致した憲法学者の「違憲」発言と、安保法案のでたらめが次々明るみに出ている今国会だが、その国会で安倍首相にならんで、国民を呆れさせているのが中谷元・防衛相だ。
象徴的なのが、維新の党の柿沢未途幹事長の質問に「武力の行使と武器の使用、この違い、本当にわかりませんか? それがわからないと、これ、議論できませんよ」と上から目線で言い放ったことだろう。この答弁は「国民に説明しようという姿勢がない」と野党の激しい反発を呼んで、中谷大臣は謝罪に追い込まれた。
だが、その後も中谷大臣に反省の色はなかった。例の憲法学者の違憲発言をめぐってはなんと、「現在の憲法をいかにこの(安保)法案に適応させていけばいいのかという議論を踏まえて閣議決定を行った」、つまり安保法制にあわせて憲法解釈を変えるという、立憲主義を頭から否定するような発言を行って、野党のみならず、与党関係者まで唖然とさせた。
自衛隊員のリスクについても同様で、「(安保法案が成立しても)隊員のリスクは増大しない」「自衛隊員の任務は、これまでも命がけで、これ以上ないリスクを負っているから、変わりはない」などと、根拠のない言い切りを連発している。
だが、この中谷大臣、陸上自衛隊の出身という経歴等から、ゴリゴリの右派と思われがちだが、実はもともとはリベラル派を自称し、集団的自衛権をはじめとする解釈改憲に反対の立場をとっていた。
「憲法を改正するかどうか、改正しなくても解釈の変更を行うべきだとの議論があるが、私は、現在の憲法の解釈変更はすべきではないと考えている。解釈の変更は、もう限界に来ており、これ以上、解釈の幅を広げてしまうと、これまでの国会での議論は何だったのか、ということになる、憲法の信頼性が問われることになる」
著書『右でも左でもない政治』(幻冬舎/2007年)の中でこう言い切っているのは、ほかならぬ中谷自身だ。「憲法の拡大解釈は限界に達している」という節の中で、中谷はこう断言もしている。「自衛隊を海外に派遣する際の枠組みとして、国連安保理の決議をふまえたものと限ることは、重要な考え方である」と。
以前はこんなことを主張していながら、今はまさにこれまでの国会の議論をすべて無意味にしてしまうような「解釈改憲」の旗ふり役を務め、「安保法制にあわせて憲法解釈を変える」と堂々と宣言するのだから、その厚顔ぶりには唖然とするしかない。