その真偽はさておき、天皇・皇后両陛下が安倍政権に対して強い危機感を持っているということは、皇室関係者の間ではもはや常識になっている。誕生日の記者会見などを通じてA級戦犯の責任の大きさに言及したり、日本国憲法について「今後とも憲法を遵守する立場に立って、事に当たっていく」と明言するなど、以前より踏み込んだ護憲発言をしたりしている。いずれも安倍政権発足前にはなかったことだ。
ところが、マスコミは安倍政権に配慮してか、こうした“お言葉”から垣間見える天皇の意向をほとんど伝えてこなかった。とくにひどいのがNHKで、2013年の誕生日会見で天皇が「平和と民主主義を守るべき大切なものとして日本国憲法をつくり……」と憲法について言及した部分を完全にカットしてしまった。NHKニュースを見た天皇はさぞや驚いたことだろう。
その天皇は、2015年の新年にあたっての「ご感想」でこう述べた。
「本年は終戦から70年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。(中略)この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」
これはもう明らかに、歴史修正主義を強め、集団的自衛権行使容認で日本を「戦争のできる国」にしようとしている安倍政権への強いメッセージというほかはないだろう。
ところが今回も一部マスコミは天皇の意向を黙殺した。
〈天皇陛下が年頭の感想 「歴史を学ぶことが大切」〉(朝日)
〈皇室:天皇陛下「歴史に学ぶこと、極めて大切なこと」〉(毎日)
〈天皇陛下「歴史学ぶことが大切」新年迎え所感〉(日経)
と、全国紙のうち3紙が「歴史に学ぶことの大切さ」つまり日本が平和国家であることへの願いに重点を置いた見出しをつけたのに対して、いまや安倍政権の広報紙ともいわれる読売、産経の2紙はまるで申し合わせたかのように、
〈天皇陛下「日本のあり方考える機会」〉(読売)
〈「日本のあり方考えていくこと極めて大切」 天皇陛下ご感想〉(産経)
と、ピント外れな見出しをつけた。まさか官邸から指示があったわけではないだろうが、天皇の言葉を素直に読めば、この見出しにはならない。