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「卒アル写真」でほんとうに未来はわかるのか? 大ヒットの心理学本を検証

 ……他にも、嘘をつく人は表情に表れる、政治家は外見が良いだけで選挙に勝ちやすい、などの例証が提示されてゆく。それらいちいちに研究資料が参照されており、キチンと検証してはいるのだろう。しかし結論部分に達するたび、思わずこんなツッコミを入れたくなってしまう。

 知ってるよ!

 唯一面白く感じたのは、女性は排卵日近くになると、同性愛者の男性を見抜きやすくなる(繁殖のための生物的本能から)といったもの。特に恋愛やセックスを念頭に置くと感知度が上がるのだという。もっともこれも、女性たちにとっては常識的な「あるある」話かもしれないが。

 確かに、当たり前と思われていたことを客観的にデータ化することは無駄ではない。印象論で語られていた常識も、数値化してみたら結論が覆るということもあるからだ。とはいえ「ささいな非言語メッセージを、我々は敏感にキャッチしている」という周知の事実に興味を抱くのは、いくらなんでも難しい。

 そういえば我が国でも、似ている書籍が流行したことがあった。2005年に116万部という大ヒットを飛ばした新書『人は見た目が9割』(竹内一郎/新潮社)だ。これも非言語コミュニケーションが印象の大半を占めているというテーマの書籍。その内容は、姿勢を良くしたり、会話の「間」、距離のとり方が大事だったり、言語以外の伝達もあるんだという……とどのつまり間違いでも無いけど、別に言われなくてもわかっていることだった。日本でもアメリカでも、今ある通念を揺すぶるのではなく、普通の常識・良識を再追認させてくれる本が求められ、売れているということだろうか?

 とはいえ『卒アル写真で~~』の筆者ハーテンステインについては、「当たり前」の確認だけで論旨を終えてはいない。政治家は印象で選ぶのではなく政策を吟味した上で投票行動すべきと述べているし、コミュニケーション能力の高い教授ばかりが学生の評価を得て出世する大学体制に警鐘を鳴らしている。我々は知らないうちに見た目・仕草(筆者は“表出性ハロー効果”と呼ぶ)に左右されていることを自覚し、それとは別の理性的な行動も心がけよう、といった主張は肯ける。

「問題は表出性ハロー効果がこれほど強力なのに、誰も気づいてないことだ」
「はっきり言わせてもらえば、その点で表出性ハロー効果は有害だ。表現豊かかどうかだけで人を判断するべきではないのに、つい誰もがそうしてしまう」

 見た目の印象による判断は、日常で「当たり前」に行っていること。言われなくてもわかってるよとは思いつつも、確かに、筆者の言うとおり「当たり前」すぎて忘れてしまう場面もあるだろう。「ささいな手がかりが示す、みんなの“正体”」といったテーマを進めつつ、そこから生じる問題点もキチンと指摘する。そんなバランス感覚の正しさについては、好感がもてる一冊だ。
(吉田悠軌)

最終更新:2018.10.18 04:54

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