また、経済の論理に支配される日本の科学界の惨憺たる研究環境を露呈したのがSTAP論文騒動だ。小保方晴子氏は、学問や研究の何たるかについての見識を深める契機も与えられずに5年任期の研究員ポジションにつき、任期内に結果が出せなければ地位を失うギリギリの状態に置かれていた。一方、笹井芳樹氏の死亡をめぐる報道のなかで、企業の出資により総工費40億円近い「笹井城」とも呼ばれる研究施設の建設が進んでいることが伝えられた。産官で莫大な投資を行い、短期的に回収できる成果をあげる仕組みをつくり、研究者を追い回しているのが、科学界の実状なのだ。
哲学者カントは『学部の争い』(1798年)で大学論を展開した。大学部の学部には、神学部、法学部、医学部上級学部とその基礎をなす哲学部に分類される。上級学部は社会的有用性を持ち国家と結びついているが、国家から自由な哲学部こそが学問の真理性を判断することができると述べている。
時の政権の意志と経済的利害だけで大学が統制され、とりわけ人文社会科学という人間や社会のあり方を考察する学問がないがしろにすることは、知的営為そのものの否定である。
「大学改革」の名の下に進行する文化破壊と知的荒廃の様をもっと多くのひとびとが知る必要があるだろう。
(村田哲志)
最終更新:2015.01.19 05:15