いきなりの“かぎ十字の肯定”。こんなことを語っている「ヒトラー政治戦略研究会」というのはなんだろうと思って、奥付をみると「編集 ヒトラー政治戦略研究会」とある。どうも、同書は自民党広報部とこの団体の合作らしい。
本文を読み進めていくと、各章の頭に『わが闘争』など、ヒトラーやヒトラー側近の著作からの引用文を掲げ、それをフックに、著者の自民党広報部長が「現代選挙の必勝法」を述べていくという構成になっているのだが、この本文もすごい。
たとえば、「勝利に一直線」という項目の冒頭には、ヒトラーの側近であったへルマン・ラシュニングの著書『永遠なるヒトラー』から、まず、こんな文章が引用されている。
《私はいかなる手段もためらいはしない。私はあらゆる手段が、正当なものとなる。私のスローガンは“敵を挑発するな!”ではなく、“非常手段に訴えて敵を殲滅せよ!”である。戦争を遂行するのは私なのだ。》
「敵を殲滅せよ!」「戦争を遂行するのは私なのだ」とか、物騒きわまりない引用だが、その引用を批判するような記述は一切ない。それどころか、著者の自民党広報部長はこれを受けて、人間全てを納得させることは不可能だから、一人が反対したら三人の賛成者を生むことが大事だと説いた後、こう檄を飛ばすのだ。
「そして、説得できない有権者は抹殺するべきです」
自民党広報部長が殺人教唆!?と驚愕していたら、次に「この抹殺とは人を殺すことではありません。政治的活動を一切させないように工作することです」と続き、ホッと胸をなで下ろしたのだが、いやいや、考えてみると、「政治的活動を一切させないように工作」というのも相当に恐ろしい。それって、反自民党的な有権者ならびに市民団体や政治勢力を弾圧して、政治に関与させないようにする!ってことじゃないか?
とにかく万事がこの調子で、ヒトラーの行為や政策を批判するような文言はほとんどなし、ひたすらヒトラーはすごい!というイメージを煽り、ヒトラーの独裁的政治手法やデマゴギーに満ちた宣伝戦略に学べ!とアジり続けるのだ。
本来なら、「ヒトラー礼讃」や「ネオナチと関係」などの話が取りざたされれば国際的な非難は免れないのだから、政治家であれば十分すぎるほど気を払うべきこと。ところが、広報部長がこんな礼賛本を出版し、安倍首相の側近中の側近である高市早苗総務相がそれを「著者の指摘通り勝利への道は『強い意志』だ」などと絶賛していたのだ。これがほんとうに民主主義国家の政権を担う政党なのか、疑わしくなってくる。