高市氏のこうした言動については、一部で「高市の右翼思想は本物じゃない、右派の支持者に媚びているだけの営業右翼にすぎない」という見方もある。
だが、始まりがそうだったとしても、国家の威信のために平和や国民の生命を平気で犠牲にし、日本を再び戦争のできる国にするという欲望は、いまや完全にこの政治家の内面に入り込んでいるといっていい。
実際、閣僚や自民党の要職に就いても、高市氏は「国民を守るための現実的判断」とは真逆な、勇ましいだけの言動を繰り返してきた。
たとえば、岸田政権時代、中国が東シナ海に「海洋ブイ」を勝手に設置した問題では、外務省が中国に撤去を求める交渉をしていたにもかかわらず、当時、経済安全保障担当相だった高市氏は、「日本の手で撤去すべき」と強硬に主張していた。
たしかに中国の行動は一方的だったが、もし高市氏の主張どおり日本の海上保安庁か自衛隊が強引ブイを撤去していたら、中国が新たなブイ設置を行うという応酬にエスカレートし、最悪の場合、中国の海警や中国軍との間で武力衝突が起きる可能性もあった。
岸田政権は当然ながらそうした強行手段を取らず、このブイは、石破政権になって当時の岩屋毅外相が粘り強く中国と交渉。自主撤去させることに成功した。岩屋元外相は高市応援団や右派から「媚中」「中国のスパイ」などという激しいフェイク攻撃を受けていたが、実際は日中関係を激化させることなく、中国に要求を飲ませていたのである。
これと比べれば、高市氏の主張が、いかに勇ましいだけで、日本の国益を損なう非現実的なものだったかがよくわかるだろう。
しかも、高市首相は首相になると、とうとうその浅はかな言動で、日本を危機的状況に陥れてしまった。
ほかでもない「台湾有事は存立危機事態」発言のことだ。高市応援団に聞きたいが、この発言のどこが、「国民と国益を守るための現実的な対応」だというのか。
日本政府は日中共同声明で「台湾が中国の一部であるとの立場を尊重する」と約束しており、首相があんな発言をすれば、中国が猛反発し、貿易圧力をかけてくるのは誰でも予想がつくことだった。それ以前に、台湾有事への軍事介入は国際法で集団的自衛権と認められない可能性が高いことを、元内閣法制局長官の宮崎礼壹氏はじめ複数の専門家が指摘していた。
にもかかわらず、高市首相は、自分の支持者たちの反中感情に媚び自身の勇ましさを誇示するためだけに、「台湾有事は存立危機事態になりうる」という挑発を仕掛けたのである。
その結果、中国は予想通り、レアアースや医薬品などの輸出規制や渡航制限に踏みきり、日本の経済に大きな打撃を与えている。
軍事的にも全くの逆効果だった。高市応援団や右派は「高市首相の発言が中国に対する抑止力になる」などと言っていたが、発言のあった年末、中国軍は過去最大規模の台湾包囲軍事演習を実施した。
このとき、中国は軍事演習のコードネームを「海峡雷霆 2025 B」から中国共産党の機関紙が高市発言批判に使っていた「正義使命」に変更しており、軍事演習の規模拡大も高市発言が原因だったのは明らかだった。
台湾だけではない。この発言を皮切りに中国は日本の領土問題への圧力も強め、100隻を超える艦船を東アジア海域に展開、尖閣諸島周辺に48日間連続で中国公船が侵入する状況となった。
この経緯を見れば、高市氏が首相になってもなお、国民の生命や国益など一切顧みず、自分の支持者を満足させるような浅はかな行動をする政治家であることは明らかだろう。
そして、おそらく高市首相はこれからも、勇ましいだけの国家主義的な言動や政治決断で、国民の平和や生命、生活の安定を脅かしていくだろう。そして、“過去の政治判断の過ちは過去のことだから反省する必要はない”というのが信条のこの政治家は、どんな悲惨な結果を生み出しても、一切反省などしないはずだ。
私たちは本当にとんでもない政治家を総理大臣にしてしまったというしかない。
最終更新:2026.08.15 06:56