ようするに、万博の開催時期とカジノ開業の時期が「相当に離れ」たのは、結果論でしかないのである。だいたい、万博経費が上振れするなか、維新の馬場伸幸代表は昨年9月、「税金の無駄遣いとは言えない。万博からIRというレールが敷かれていて、うまくいけば大阪・関西経済に大きなインパクトがある。そこには惜しみなくお金を出していく」と発言したのを横山市長は忘れたのか。
横山市長のみならず、吉村知事や松井前市長なども、いまでは「万博とカジノはセットではない」といったポーズをとっているが、「大阪万博はカジノのありきの万博」であることは揺らがない事実だ。
そのことを明らかにするためにも、カジノと万博誘致の経緯を振り返ろう。
そもそも、大阪へのカジノ誘致計画は橋下徹・府知事時代からはじまっている。たとえば、橋下府知事は2009年、「こんな猥雑な街、いやらしい街はない。ここにカジノを持って来て、どんどんバクチ打ちを集めたらいい。風俗街やホテル街、全部引き受ける」と発言。この発言は当然ながら批判を浴びたが、橋下氏のカジノ誘致への姿勢は変わらず、2013年12月に大阪府・市は「IR立地準備会議」を設置。2014年4月に松井知事はIR予定候補地を夢洲とする意向を表明し、その4カ月後である2014年8月には万博の誘致を表明した。
一方、万博予定地を決めるために2014年には立地調査がおこなわれたが、候補地としてあがっていたのは花博記念公園鶴見緑地や万博記念公園といった万博跡地、関西国際空港に近いりんくう公園・りんくうタウンといった場所で、夢洲は交通アクセスの不備が指摘されていた。また、翌2015年7月には府や経済界などでつくる検討会が府内6カ所を候補地として選定したが、そこに夢洲は含まれていなかった。
ところが、2016年5月21日に松井知事が菅義偉官房長官と東京都内で会談し、その場で「会場候補地は夢洲を軸に検討する」と方針を伝達(朝日新聞2016年5月23日)。同年7月22日に開かれた「2025年万博基本構想検討会議 第1回整備等部会」の議事録によると、事務局の担当者が「夢洲は、要は知事の試案ということで、知事の思いということで、この場所で出来ないかということでお示しをした場所でございます」と発言している。
つまり、大阪万博を夢洲で開催するというのは事実上、松井氏によるトップダウンの決定だったわけだが、松井氏が夢洲にこだわった理由、そして菅官房長官にわざわざ報告をおこなったのは、夢洲がカジノ候補地だったからにほかならない。
夢洲はもともと廃棄物の最終処分場だったためインフラ整備に巨額の金がかかるが、カジノだけでは税金投入に反対意見が出る。しかし、万博という大義名分を使えば、夢洲のインフラ整備を図ることができる──だからこそ、松井氏は万博誘致を決めたとしか思えないのだ。
さらに、この「カジノありきの万博」案は、万博候補地を夢洲に据えた2016年5月の松井・菅会談以前から安倍政権と共有がなされていたはずだ。松井氏は著書『政治家の喧嘩力』(PHP研究所)のなかで、2015年の年末に安倍晋三首相と菅官房長官、吉村氏、橋下徹氏とおこなった忘年会において、〈総理にお酒を注ぎながら、一生懸命、持論を展開した〉と記述。「菅ちゃん、ちょっとまとめてよ」という安倍首相の一言で〈大阪万博が動き出した〉と振り返っている。当時、安倍首相が「カジノは成長戦略の目玉だ」としてカジノ合法化に向けて前のめりだったことを踏まえると、カジノありきで万博を推進していくことは暗黙の了解となっていたと考えるのが自然だろう。
そして、維新と安倍政権が一体となって「カジノありきの万博」が進められた結果こそが、現在の国民負担の増大だ。