2022年8月から11月まで、都の外郭団体・東京都⼈権啓発センターが運営する「東京都人権プラザ」において、飯山氏の企画展「あなたの本当の家を探しにいく」が開催された。しかし、当初は同企画展で飯山氏の映像作品《In-Mates》の上映会とトークが予定されていたのだが、同年5月、これに都の人権部から上映に待ったがかかった。
《In-Mates》の作中では、在日コリアンの歴史に詳しい外村大・東京大学大学院教授が「日本人の庶民が無実の朝鮮人を相当殺したのは間違いない」と話す場面が出てくるのだが、このシーンをめぐり、人権部の職員がこんなメールを東京都⼈権啓発センターに送ったのだ。
「都ではこの歴史認識について言及をしていません」
(小池都知事が関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文の今年も送らなかったという内容の朝日新聞の記事を参照したうえで)「都知事がこうした立場をとっているにも関わらず、朝鮮人虐殺を「事実」と発言する動画を使用する事に懸念があります」
つまり、小池都知事が追悼文送付を拒否していることによって、都の人権部は歴史的事実である朝鮮人虐殺を「事実」と述べているだけのシーンを問題視し、上映禁止にしたのだ。繰り返すが、都の「人権部」が、である。
この東京都の検閲に対し、飯山氏は〈これは明らかに都知事への忖度であり、東京都人権部による《In-Mates》上映禁止の判断は、都政による在日コリアン(在日韓国人・在日朝鮮人)へのレイシズム、民族差別に他なりません。「人権が尊重される社会を実現する」ことを掲げているはずの東京都人権部による差別と検閲は、決してあってはならないことです〉と抗議。上映の実施や人権部からの謝罪などを求めた署名活動をおこない、今年3月1日には3万筆もの署名を人権部に手渡ししている。
しかし、人権部からの謝罪はなく、そればかりか、人権部はいまだに上映中止の理由を書面でも口頭でも飯山氏に一切説明せず。飯山氏らがいくら申し入れをおこなっても暖簾に腕押しで、ついに人権部の職員は「業務に支障が出ている、職員が萎縮する」という理由で飯山氏を都庁内の人権部にさえ入れなくさせてしまったのだ。
小池都知事は追悼文送付をやめた2017年9月1日におこなわれた定例記者会見において朝鮮人虐殺の事実をどう捉えているかを問われた際、「さまざまな見方がある」「歴史家がひもとくものではないか」などと回答した。つまり、歴然たる事実を「あった」と認めることを避けることによって、虐殺否定論にも理があるかのような含みをもたせたのだ。松野官房長官の「政府内で事実関係を把握できる記録が見当たらない」という発言も、これと同じものだろう。
小池都知事の姿勢が、差別を煽るヘイト団体の跋扈を許し、とんでもない検閲がまかり通る状況を都政に生んでしまったことを踏まえれば、松野官房長官の発言も、到底看過できるものではない。
本日9月1日は「《In-Mates》上映禁止事件があらわにしたレイシズムと歴史否認に抗する」ため、都庁前や新宿中央公園水の広場などにおいてデモやダイ・インがおこなわれる予定だ。小池都知事や岸田首相に対しては、朝鮮人虐殺の歴史を否認するような言動に強く批判するとともに、当たり前だがその事実を「あった」ものとしてはっきり発信するよう、要求しなければならないだろう。
(編集部)
最終更新:2023.09.01 02:32