たしかに、この峯村氏の書いた記事、いまとなっては、読んだだけでもマユツバ感が伝わってくる。
そもそも「金正恩が後継者に内定した」というニュースはこの朝日記事の数カ月前に韓国の聯合ニュースが報道。その後も複数の韓国メディアが同様の記事を断続的に出していた。峯村氏は、それを追いかけるかたちでこの記事を書いたのだが、よりにもよって、正恩氏がこんな早い段階で極秘裏に訪中し、胡錦濤に「自分が後継者になる」と報告、しかも、長男の金正男氏が仲介するかたちで同席していたとは……。正男氏といえば、正恩氏に殺されるのを恐れてずっと国外を逃げ回っていると報じられ、2017年には旅行中の空港で暗殺されている。そんな人物が、胡錦濤との会談を仲介するなんてありえないだろう。
実際、この記事については、報道直後から「誤報だ」「ガセだ」という声が上がっていた。中国外務省の報道官が「報道された事実は存在しない」「まるで(スパイ小説の)『007』を読んでいるようだ」と全否定すると、毎日新聞など複数のメディアが疑問視、「週刊新潮」(新潮社)が「中国報道官が『007の小説』と小馬鹿にした朝日新聞『金正雲・胡錦濤会談』大虚報のケジメの付け方」という見出しで報道したのだ。
ちなみに、朝日新聞側はこの「週刊新潮」の記事に対して抗議文を送付したが、その朝日新聞も後になって、峯村氏の“スクープ”を打ち消すような記事を掲載している。峯村氏が正恩氏と胡錦濤との会談の「紹介者」と書いた金正男氏が殺害された2017年、当時ソウル支局長だった牧野愛博氏が署名記事で〈正男氏と正恩氏は別々の場所で育てられ、面識もなかったという〉と書いたのだ。
両者に「面識がなかった」のなら、「正男氏が胡錦濤を正恩氏に紹介し、胡錦濤との会談に同席した」と書いた峯村氏の記事はどうなるのか。
この矛盾は、当時、朝日の粗探しが大好きな産経新聞にも突っ込まれていたが、しかし、朝日も峯村氏もこの「誤報疑惑」について説明することはなく、そのままうやむやになっている。
ようするに、こんな人物が、今回、政治家に頼まれて他社の雑誌に介入した挙げ句、「誤報を回避した」などと言い訳をまくし立てていたのである。「誤報でもない他社の誤報を心配する前に、まず、自分の誤報疑惑をきちんと説明しろ」というツッコミの声が上がるのは当然だろう。
実際、この“誤報疑惑の過去”はさっそく「週刊文春」(文藝春秋)が取り上げた。ところが、直撃を受けた峯村氏の回答は、「今は朝日新聞の社員なので、会社を通して頂けますか」というもの。峯村氏といえば、前述のnoteで自分を処分した朝日を批判、従軍慰安婦報道まで持ち出して攻撃を繰り出していたのに、「朝日を通せ」と会社を盾にするとは、なんともトホホな対応というしかない。