しかも、『ニュース女子』はネトウヨ番組を手掛けるDHCテレビが制作・完成版をUHF局のTOKYO MXに納品する「持ち込み番組」だったのに対し、今回の番組は公共放送として信頼度の高いNHK大阪放送局が制作・放送したものだ。そこであきらかな虚偽の内容を伝えたことの責任は計り知れないほどに重い。
そもそも公共放送であるNHKでは民放とは比べものにならないほど厳しい考査を経て放送がおこなわれており、放送前には「試写を繰り返し、念には念を入れて事実確認や検証をおこなうことで知られている。つまり、普通ならば事前チェックの段階で、番組責任者や上司から証言映像もなくテロップで説明することの問題の指摘や男性の証言の裏付けをとったのかなどの確認がおこなわれているはずだし、それ以前に、『ニュース女子』問題でBPOが指摘していたように「抗議活動を行う側に対する取材の欠如」が指摘されていたはずだ。
さらに、NHKは2014年5月放送の『クローズアップ現代』に発覚したやらせ問題を受け、翌2015年、調査をおこなった上で再発防止策を公表。そこでは〈「匿名化した映像」のチェックの導入〉を掲げ、〈全国の放送現場で「匿名での取材・制作チェックシート」を活用する〉ことを明記。このチェックシートでは「必要性の検討」「内容の真実性」「取材先はどんな人か」などの項目があり、〈取材・制作の担当者と上司などが、これらの項目に沿って検討・判断する。シートは制作責任者が最終確認し、上司の部長などが局内の文書保存要領に従って保管する〉としていた。また、この再発防止策では〈試写などによるチェックの強化〉も掲げており、〈取材制作担当者とは別の担当者や上司、局内で高い専門性を持つ者が参加〉する「複眼的試写」や、留意点を書き出して共有する「取材・制作の確認シート」の導入、「事前考査によるチェック」の充実などを挙げていた。
ところが、今回の番組は、こうしたチェックを経ていたならば当然に撥ねられていたはずの内容を、平然と垂れ流してしまったのだ。
この背景には、NHKの政権迎合体質が関係しているとしか思えない。周知のように、NHKは、政権に不都合な報道には神経を尖らせ、2001年には日本軍性奴隷制を裁く女性国際戦犯法廷を取り上げた放送前のドキュメンタリー番組に内閣官房副長官だった安倍晋三から「勘ぐれ、お前」と政治的圧力をかけられ放送内容を改ざんさせたほか、2014年に菅義偉官房長官に鋭い質問を浴びせた『クロ現』の国谷裕子キャスターを降板させたり、森友の国有地不当売却問題でスクープを飛ばしたNHK大阪放送局の相澤冬樹記者(当時)の上司を恫喝したり、加計問題では「総理のご意向」文書を他社が報じる前に入手しながら肝心の部分を黒塗りにして報じるなど、忖度に忖度を重ねてきた。
しかし、今回の虚偽・捏造放送の内容は政府やメディアが一体となって推し進めてきた「コロナ禍での五輪強行」への抗議を貶めるものであり、政権からは歓迎されこそすれ、クレームをつけられることはない。そうした認識がチェックの甘さを生んだのではないか。
いずれにしても、いったいどんな過程を経て、問題の番組が放送にいたったのか、NHKは検証・説明をおこなう責任があるだろう。
ところが、NHKが今回とった姿勢は、まったく納得がいかないものだ。何しろ、冒頭で紹介した謝罪文でも、昨日夜にNHK BS1で放送した2分の謝罪番組においても、説明は一切なし。今後検証をおこなうことさえ明言しなかったのだ。