しかも、問題なのは、安倍前首相はこうした統一教会による選挙協力に利用しているだけではなく、その政策もほとんど一体化しているという点だ。
たとえば、勝共連合が掲げる〈自主憲法制定運動〉については、〈「人権」の過剰を是正し「義務」を示す〉〈「家族条項」をもる〉〈9条を改め軍事力の保持を明記する〉との見出しが踊り、教育分野についても〈改正教育基本法に基づいた教育の再生〉〈日教組による偏向教育を正せ〉〈愛国心と家庭教育の充実〉と、完全に安倍前首相の言うことなすことと同一なのだが、一方、安倍前首相は今回のスピーチで、このように語って統一教会を褒め上げていた。
「UPFの平和ビジョンにおいて、家庭の価値を強調する点を高く評価いたします。世界人権宣言にあるように、家庭は社会の自然かつ基礎的集団単位としての普遍的価値を持っているのです。偏った価値観を社会革命運動として展開する動きに警戒しましょう」
周知のように、統一教会は同性婚などを敵視するゴリゴリの保守的家族観を有しているが、ようするに安倍前首相はその統一教会の家族観を称賛し、憲法に保障された「個人の尊重」に基づいて同性婚や夫婦別姓の実現を求める声を「偏った価値観の社会革命運動」だと非難、「警戒せよ」と呼びかけたのである。
さすがは下野時代に「夫婦別姓は家族の解体を意味する」「夫婦別姓は左翼的かつ共産主義のドグマ(教義)」などと主張していただけあるが、このように、女性や性的マイノリティの権利を毀損する思想に共鳴し、共有することを隠そうともしない安倍前首相には、もはやぞっとするほかない。
しかし、もっと背筋が凍るのは、次期総理大臣を決めることになる自民党総裁選においてもこの思想が共有されている、ということだ。
実際、安倍前首相が支持に回っている選択的夫婦別姓反対派の急先鋒である高市早苗氏はともかくとして、岸田文雄氏は選択的夫婦別姓制度の早期実現を目指す議員連盟に参加していたはずなのに、総裁選で安倍前首相に尻尾を振るために「引き続き議論をしなければならない」などと後ろ向きな発言をおこなう始末。安倍前首相と面会したあとに原発再稼働容認や女系天皇の否定を口にするなど変節ぶりを見せた河野太郎氏も、昨年12月には選択的夫婦別姓制度導入について「党議拘束外して議論を」と発言していたというのに出馬表明会見や政策パンフレットではその是非に触れなかった。
つまり、前首相がカルト宗教団体のイベントで平然とスピーチをおこなうという問題だけではなく、前首相がその団体と極右思想で共鳴し合い、その思想が次期首相を決める総裁選でも“踏み絵”となっているのである。
本格的な野党共闘に乗り出した立憲民主党の枝野幸男代表は総選挙での公約に選択的夫婦別姓の制度化や性的マイノリティ平等法の成立などを掲げ、「自民党内は強硬な反対論が大方を占めており、誰が総裁になろうとできない。政権を代えないといけない」と述べたが、まさしくそのとおり。安倍前首相が幅を利かせるかぎり、この異常な人権後進国の状況からは脱することはできないのである。
(編集部)
最終更新:2022.01.02 07:01