言っておくが、玉木代表は衆院選直後に「憲法審査会では維新と国民民主党は緊急事態条項の創設を強く主張してきた」とするTwitterユーザーの投稿に対し、わざわざ〈緊急事態条項はそうでもないですよ〉と返信していた。ところが、この日の憲法審査会では完全に緊急事態条項の創設に賛成する側に回ったのである。
玉木代表といえば、東京都武蔵野市が提出していた外国籍の住民にも住民投票の参加を認める条例案が否決されたことを受け、「こういうことが(外国人に対する)地方参政権の容認につながっていく。否決されて安心したというのが率直な思いだ」「憲法に外国人の権利をどうするのかという基本原則が定められておらず、ここが一番の問題」などと発言。極右と見紛う排外主義と人権意識のなさをあらわにして批判を浴びているが、緊急事態条項の創設を認めようという姿勢からも、あらためてこの男の憲法に対する姿勢がいかに粗雑で危険であるかがはっきりしたと言えるだろう。
それだけではない。この日の憲法審査会で立憲は「改憲ありきであってはならない」という従来の立場をとり、憲法改正が発議された際の国民投票運動中のCM・ネット規制問題の議論を優先するよう主張。これはCM規制がないままで憲法改正が発議されれば170億2100万円(2021年度)というダントツの政党交付金を受け取っている自民党をはじめ、国会で多数を占めて潤沢な広告資金を抱えている改憲派がCMを使った広報戦略では圧倒的に有利となり公平性が担保されない危険があるためで、当然、議論が優先されるべき重大事だ。
しかし、国民民主党の玉木代表は「具体的な憲法上の論点が複数あるなかで、論点を絞った議論も必要不可欠だ」としてテーマごとに「分科会」を設置して議論を進める方式を主張し、「国民投票法と憲法本体の議論は同時並行で進めていける」と発言。維新の足立康史衆院議員も「(国民投票の)CM規制に関する分科会もつくったらいい」と言い、立憲の奥野総一郎・野党筆頭幹事に対して「今日この場で(分科会方式で)やろうと合意していただきたい」などと迫ったのだ。
こうした強引な議論に対し、立憲の奥野議員は「分科会をやる段階で一定の価値観が入る。取り上げる項目も決まっていないのにいきなり分科会というのは拙速だ。自由討議を中心にするべきだし、国民投票法改正案をきちんと煮詰めていくべきだ」と指摘したが、改憲勢力が選挙の結果、以前より力を持ち、発言力が増していることから、立憲やそもそも憲法審査会を動かすこと自体に反対している日本共産党が劣勢に立たされているのは明らかだ。
実際、維新の馬場共同代表は「野党第一党は憲法審の開催に労をとるべき立場にある。役割を果たせないなら野党第二党が引き受ける」などと乱暴極まりないことを言い出す始末。立憲の泉代表は、来年の通常国会で憲法審査会を週1回の定例日に開催するという改憲勢力の要求を「『憲法審査会だけを動かせ』というのは国民をだます行為だ」と批判したが、「提案型」を掲げたことによって基幹統計改ざん問題でも追及が鈍ったように、こうした要求を通常国会で撥ね付けられるかは不透明だ。
このように、自民党政権や維新、そしてメディアによる「野党がだらしない」「批判ばかり」という的はずれな批判に唯々諾々と従い、立憲が政権の暴走を監視・批判すべき野党第一党としての責務を放り出せば、来年、危険な改憲への道は一気にひらかれることになるのは間違いない。いま、改憲に向けて安倍政権時よりも危うい状況に陥っているということを、けっして忘れてはいけないだろう。
(編集部)
最終更新:2021.12.26 06:46