それは昨年11月24日におこなわれた参院財政金融委員会でのこと。質疑に立った自民党の西田昌司参院議員は、日銀の金融緩和とセットで財政出動をしなかったことや2度にわたる消費増税といった経済政策を批判し、こう述べた。
「私は、今日は麻生大臣来られていませんけれど、この間の麻生大臣、財務省のこの財政政策は、本当にこれは、申し訳ないですけど、万死に値すると思っています」
今回、山本太郎が麻生太郎を「万死に値する」と批判したのも、「国の通貨発行権を使いながら全国にお金を回してデフレを終わらせるということを、ずっと言い続けてきた人間が完全に財務省の手先になっている」という経済政策をめぐる話のなかで出た言葉だったが、同じように経済政策を批判するなかで与党・自民党の西田議員も麻生太郎を「万死に値する」と言い切っていたのである。
言っておくが、昨年、西田議員が麻生太郎を「万死に値する」と言ったことはネット上で炎上などしなかった。
麻生太郎が鳩山元首相に「万死に値する」と発言したときも同様で、今回のような批判は何も起こらなかった。ネット上ではむしろ「よく言った!」「内乱罪で死刑にして欲しい。私刑でもいい」「その通り」「ほんとそう思うわ」「同感」などといった賛同コメントが書き込まれていた。
ようするに、今回発言したのが山本太郎だったために「生存権の侵害だ」「辞職勧告決議案を出せ」などと騒いでいるだけなのだ。
にもかかわらず、ネット上では今回の山本太郎の発言によって、またも「政治家に何を言ってもいいわけではない」「誹謗中傷はやめろ」などという批判が起こっているのである。
たとえば、フィフィは〈芸能人への誹謗中傷には敏感になったけど、何を勘違いしてか、この前の選挙特番の件にしろ、政治家にはどんな発言してもいいって思ってる人がいるよね。てか、その程度の人間と思われるのにね〉と、まったく言論というものを理解していないツイートをしている。
これまでも、爆笑問題の太田光が安倍晋三・元首相について「バカ」と発言したり、同じくマツコ・デラックスが「無神経、馬鹿じゃないと総理大臣ってできないと思うのよ。安倍ちゃんなんて馬鹿の象徴じゃない?」と発言した際にも、ネトウヨが激高し、「名誉毀損だ!」と大騒ぎしてきた。そして、今回もまた同じ光景がまた繰り広げられているのだ。
だが、これは「名誉毀損」でもなんでもない。たとえば「バカ」と評することも、それは過去の判例から裁判所が法的に認めていることでもあり、実際に森喜朗・元首相の名誉毀損裁判で2000年に東京地裁は〈原告は政治家で、しかも内閣総理大臣である。その資質、能力、品格が政治的・社会的に厳しい批判に、時には揶揄にさらされることは避け難い立場にある〉としている。