だが、裁判になっても、DHCテレビジョン側の姿勢は全く変わらなかった。自分たちの非を認めず、報道について「公益目的がある」「事実の摘示にあたらない」「真実性、真実相当性がある」などと主張。長谷川氏にいたっては、逆に、辛淑玉氏が訴訟提起したことと、当時の所属先である中日新聞に抗議を行ったことが名誉毀損にあたるとして反訴に及んだ。
それから、3年半、ようやく判決が出たのだが、結果は冒頭で指摘したように、DHCテレビジョンの全面敗訴となった。
損害賠償などの支払い命令額が550万円という異例の高さをみても、東京地裁が『ニュース女子』の報道を悪質なデマだと認定したことがうかがえるが、判決文でもことごとく、DHC テレビジョンの言い分を否定している。
たとえば、DHCテレビジョン側は「事実の摘示ではない」、つまりデマを事実であるかのようにいっていたわけではなく、論評や分析に過ぎないと主張していたが、東京地裁は以下のように全面否定した。
〈原告が、暴力や犯罪行為も厭わない者たちによる反対運動に関し、同反対運動において暴力や犯罪行為がされることを認識・認容した上で、経済的支援を含め、これを煽っているという事実を摘示するものであると認められる〉と指摘。
「真実性、真実相当性」についても同様で、〈反対運動において暴力や犯罪行為が行われることを認識・認容した上で、経済的支援を含め、これを煽っているとの事実のうちの重要な部分の真実性が証明されているとは到底いえない〉などと、ほとんどの部分で、真実とはいえないという判断を下した。
ただ、判決は不十分に思える点もあった。それは、辛淑玉氏が訴えていたもうひとりの被告・番組MCの長谷川幸洋氏をめぐる判決だ。辛氏の訴訟提起などを長谷川氏が名誉毀損だとした反訴していた一件はさすがに却下されたが、一方で、辛淑玉氏が長谷川氏に対して行っていた損害賠償請求も認められなかった。
長谷川氏は裁判で、問題のデマ報道について、司会をしただけで、番組の企画、制作や編集には関与していない、自分は辛淑玉氏について発言はしておらず、スタジオ収録部分のVTRのテロップなどもあとから入ったものだから、辛淑玉氏の名誉が毀損されていることを知らなかったなどという主張をしていた。
実際は、長谷川氏もスタジオで、コメンテーターが辛淑玉氏の「黒幕」説などを口にしたのをはっきり聞いているし、翌週の1月9日放送回でも、辛氏の名前こそ出さなかったものの、辛氏が代表をつとめる「のりこえねっと」にあたかも怪しい台所事情があるかのように示唆していた。
これで「辛氏が名誉毀損されたことを知らなかった」ということがありうるのか疑問だが、しかし、裁判所は〈各出演者がどのような発言をするかを具体的に把握していたわけでもない〉と長谷川氏には、不法行為の責任もDHCテレビジョンの名誉毀損行為の幇助者としての共同責任も問えないとしたのだ。