野戦病院については、いまごろになって田村憲久厚労相が各都道府県に整備を要請する考えを示したが、都の頑なな姿勢を見れば、これが都で実行されるのかは疑わしい。さらに、野戦病院としての活用例として名前が挙げられている東京ビッグサイトについては、東京都も政府も使用させるはずがない。
というのも、東京ビッグサイトは現在、東京五輪から引きつづいてパラリンピックでも、メディアの活動・取材拠点である「国際放送センター」「メインプレスセンター」として使用中。さらに、東京ビッグサイトの青海展示棟内と青海地区セントラル広場西側は、パラ期間中、来場者のスポーツ体験やスポンサー企業の出展、オフィシャルショップなどのイベント会場として使用される予定だからだ。
専門家からも「すぐに野戦病院を設けるべき」という声があがる事態なのに、その候補地はパラのために使用される──。しかも、新規感染者を抑え込まなくてはならないときに、スポンサー企業のPRのために1日計1万人を入れる大規模イベントまで開催しようとは、「狂気」としか言いようがない。
国会の閉会中審査での丸川珠代・五輪担当相の答弁によれば、パラ開催で必要な医師はピーク時に約120人、看護師は約150人を想定しているという。この医療従事者を投入して東京ビッグサイトに野戦病院をつくれば、一体どれだけ都民の安心につながるだろう。
しかし、この期に及んでもパラ開催と13万人もの子ども動員を「理解しろ」と要求し、感染拡大も医療崩壊も他人事のように涼しい顔をしている小池都知事には、都民の不安はまったく届かない。本当の意味で「非常事態」なのは、この冷酷なモンスターがトップにいるという事実のほうだろう。
(野尻民夫)
最終更新:2021.08.21 07:11