このように誰の目にも危ない状態に陥っていたにもかかわらず、入管庁が4月9日に公表した中間報告では、面会翌日である3月4日に実施された外部の総合病院精神科での診療結果を〈医師は(中略)例えば病気になることにより仮放免をしてもらいたいとの思いが作用するなど心因性の障害を生じさせている可能性があるとして「身体化障害の疑い」と診断〉とまとめ、死因については〈適切な把握に向けて努力していく〉などとしていた。
だが、この中間報告では重要な事実が隠蔽されていた。この死亡2日前に診察した医師は、診察状況を入管側に報告した書類のなかで「患者が仮釈放を望んで心身に不調を呈しているなら、仮釈放してあげれば良くなることが期待できる。患者のためを思えば、それが一番良いのだろうがどうしたものだろうか?」と記述し、医師から入管側に「実際に外に出してみないと判断できないので、一度出すべきだ」と仮放免の必要性を伝えていたことを、4月22日にTBSがスクープしたのだ。
そもそも外部の病院を受診させるのがあまりにも遅すぎるのだが、そればかりか入管庁は、医師から仮放免の必要性を伝えられていたことを中間報告では隠蔽し、あたかも詐病であるかのように印象づけていたのである。
これだけでない。亡くなった3月6日に入管から緊急搬送された直後の血液検査やCT検査の結果を東京新聞が入手したところ、腎機能や肝機能、血糖値などの数値が「桁違いに悪い」状態であったことが判明(4月24日付)。毎日新聞は複数の医師にこの血液検査などの結果の分析を依頼し、そのなかで和田修幸・横浜関内わだクリニック院長は「集中治療室での高度医療が必要なレベルで、本来なら、もっと早い段階で病院で治療を受けさせるべきでした」「(死亡の)2~3週間前でも相当状態が悪かったことが推測されます」「せきや発熱などの症状もあったはずで、死亡の1カ月前以内に採血などの検査が行われていなかったのなら、医療的には疑問はあります」と指摘している(4月30日付)。
中間報告では亡くなった6日13時31分ごろにはすでにウィシュマさんは看守から呼びかけられても反応を示さず、14時すぎに血圧を測定しても「測定不能」となったことが記されているが、このような異常な数値を叩き出していたことは一切触れられていない。いや、この検査結果を踏まえても、数カ月前から相当に病状は悪化していたことは明白だというのに、中間報告によると入管は点滴をおこなわず、経口補水液を与えていただけなのだ。