それは、今月5日の夜におこなわれた菅首相の会食の場でのこと。この日も菅首相は新橋にある第一ホテル東京内の焼鳥店「伊勢廣」で、自身の子飼い議員であり菅内閣の発足で官房副長官に引き立てた自民党の坂井学氏や、熊谷亮丸・内閣官房参与と会食。11日付の朝日新聞デジタルの記事によると、菅首相は1時間でその場をあとにしたが、その後も坂井官房副長官と熊谷参与は残って会食しており、廊下には複数社の記者たちが待機していたという。
そのような状況下で、坂井官房副長官は、なんとこう口にしたというのだ。
「所信表明の話を聞きたいといって呼びながら、所信表明にない(日本)学術会議について話を聞くなんて。全くガバナンス(統治)が利いていない」
しかも、記事によると〈坂井氏の店内での発言が、廊下にいる記者団にはっきりと聞こえた。なかには、「NHK執行部が裏切った」といった発言もあった〉というのである。
学術会議の任命拒否問題では違法性が指摘され、世論調査でも菅首相の説明は不十分だという声が大きいというのに、その質問をおこなっただけで「ガバナンスが利いていない」「NHK執行部が裏切った」と怒る──。ようするに、当然おこなわれるべき当たり前の質問や、納得のいかない回答に対する追加質問など、菅首相には何もぶつけるな、ということだ。これで真っ当な政権追及などできるはずもない。
だが、菅官邸にしてみればNHKを大本営発表の機関だと考えているのだろう。そして、菅首相の側近から飛び出たこの発言によって、いかに菅官邸がNHKを問題視しているかがはっきりした。
そんななかで飛び出した、今回の「有馬キャスター降板」の報道──。前述したように、これまで国谷氏や古舘氏を降板に追い込んだ菅首相ならば、そこまでやらなければ腹の虫が治まらないのだろうということは容易に想像がつく。
さらに、NHKにとっても菅首相の怒りを広げるわけにはいかない事情がある。菅首相は総務相時代からNHK改革を掲げてきたが、菅政権でも武田良太総務相は受信料をめぐって「(NHKは)国民に対して常識がない」などと批判。「次期通常国会に、NHKのことに関して放送法改正案を提出することを考えています」と明言している(「ダイヤモンド・オンライン」17日付インタビューより)。また、「総理、怒っていますよ」とNHKに電話をかけたとされる山田真貴子・内閣広報官は、前述したように総務省出身だ。“下手な報道をするとNHK改革でどうなるかわかるか”という脅しのメッセージが含まれているとNHK側は受け取ったはずだ。
国谷氏や古舘氏につづいて、菅首相に楯突いたキャスターとして有馬氏も降板させられてしまうのか──。今後の動きに注視が必要だ。
(編集部)
最終更新:2021.12.23 08:59