しかし、この医療体制の強化においても、それを放置してきた菅首相は強権性を剥き出しにしている。病床確保のために、医療機関への協力要請を現行の「要請」から「勧告」に強め、応じない医療機関名を厚労相や都道府県知事が公表できるようにするというのである。
最近では「コロナ患者を受け入れない民間病院が悪い」「医療逼迫は民間病院のせい」と民間病院が攻撃に晒されているが、病床不足の現状は民間病院の責任ではまったくなく、すべて国の失策にほかならない。実際、田村憲久厚労相も「(病床の確保を)地域医療計画に盛り込み、準備、訓練も含めてしておくべきだった」と口にしている。
しかも、民間病院がコロナ患者を受け入れるには、感染者用の病棟・病室の準備、一般診療・手術・入院患者数の縮小、医師や看護師の体制強化など、整備に時間も金もかかる上、ノウハウ不足から院内感染やクラスターが発生するリスクも高く、そうなると一般患者が減るなどの打撃も受ける。政府は現在、患者を受け入れた医療機関に対して1床あたりの補助金を打ち出しているが、それでは不十分であり、まずは減収補填を約束した上で補助をおこなうべきだ。
だが、そうした補償策を置き去りにしたまま、「勧告を拒否したら名前を晒す」と恫喝するだけ。政府は時短営業に応じない飲食店についても店名を公表できるよう臨時閣議で特措法の政令を改正したばかりだが、ようするに、菅政権はいまだに必要な対策をとろうともせず、そればかりか名前を晒すことによって「協力しない“非国民”」認定をおこない、「自粛警察」のような攻撃をけしかけ、批判対象を政権から飲食店や医療機関にスライドさせようとしているのだ。
第1波の際にも患者やその家族、医療従事者、自粛期間中に営業した店などへの攻撃が多発し、患者の自宅に石が投げ込まれる、クラスターが発生した大学に「火をつける」という脅迫電話やメールが殺到する、営業する店をネット上に晒し上げるなどの問題が起こった。このような分断・攻撃を生まない対策を打ち出すのは政府の責任だというのに、むしろ「私刑」を横行させようとしているとしか思えない。