吉本については、ウーマンラッシュアワーの村本大輔も政権批判や百田尚樹氏、高須克弥院長といったネトウヨ論客とのTwitterバトルをおこなったことについて、幹部から説教されたと明かしたことがある。ほんこんや千原せいじ、小籔千豊といったネトウヨ芸人を放置しておいて、政権批判をおこなう芸人には圧力をかける吉本の政権ベッタリ体質も大きな問題だが、中田の場合は同じ事務所の「大御所」、つまり松本人志がお笑いを支配している状況を暗に指摘しただけ。にもかかわらず、わざわざ社長までもが出てきて「謝れ」と圧力をかけてきたというわけだ。
しかし、吉本がこうした圧力をかけてきたのは当然だったかもしれない。なぜなら、松本は吉本興業にとって、絶対的存在、批判が許されない最大のタブーだからだ。
現在の吉本は、大崎洋会長の独裁的な社内支配にあるが、大崎会長はダウンタウンのデビュー直後から面倒を見ている“産みの親”で、ダウンタウン人気を背景に出世の階段を駆け上がってきた経緯があるため、つねに松本の意向を最優先。その結果、松本は重要タレントの域に収まらず、吉本興業全体を支配する存在になってしまった。
実際、昨年、大きく報じられた闇営業問題にからんで、「週刊文春」(文藝春秋)2019年7月25日発売号も「松本人志が牛耳る吉本興業の闇」と題し、松本と大崎会長のただならぬ関係と強権支配をこのように報じていた。
〈八百六十人の社員と六千人の所属タレントを抱える経営トップが、一タレントである松本の意のままに動く。それは会長以下の経営陣が松本と極めて近しい人間で固められ、松本が絶大な権力を手にしているからに他ならない〉
〈大崎氏はダウンタウンの人気を権力の源泉として、社内で権勢をふるっていく。〉
〈松本・大崎氏その関係性を隠そうとしないため、吉本社内で松本に進言できる人間は皆無。テレビ局が吉本興業との交渉で苦慮するのも松本の処遇です〉
つまり、中田に発言は松本という「大御所」に物申したということだけではなく、吉本興業という自分の所属事務所の最大のタブーを侵すものだったのだ。そうした構造を中田自身もよくわかっていたはずだが、それでも自分の意見を曲げず、謝らなかったのである。
そして、中田は翌年から『ビビット』(TBS)や『ヒルナンデス!』(日本テレビ)といったレギュラー番組から“卒業”することとなり、ついにテレビから姿が消えていったのだった。
中田自身は干されたわけではなく、自らテレビに見切りをつけたと強気の姿勢を崩していないが、この決断の背景に吉本上層部からの圧力があったことは疑いようもない。
中田は松本が牛耳るテレビというメディアに嫌気がさして、新しいメディアを志向していった。その結果が、今回の独立だったと言っていいだろう。
ところが、今回の中田の吉本退所を報じる芸能マスコミやネットのニュースをみても、背景にある松本とのトラブル、吉本上層部からの圧力についてふれる大手メディアは皆無だ。最近はジャニーズ事務所のタレントの退所問題の裏も報じられるようになったが、松本人志は逆。タブー化がさらに強固になっているということらしい。
(編集部)
最終更新:2020.12.29 10:11