自分の政策に反対する学者など許さない、解釈変更でいかようにもできる──いかにも安倍首相らしい政治の私物化とやり口だが、日本学術会議に横やりを入れてきたのが杉田官房副長官だったことからも、これは安倍首相の意向を汲み取った菅官房長官が杉田官房副長官を動かし不当な人事介入を実行してきた、ということだろう。
実際、今回の改選でも、安倍官邸は日本学術会議側に前回と同様、定員105人を上回る候補者リストを提出することを要求していたというが、2017年〜今年9月まで日本学術会議の会長を務めた山極寿一・京都大学前総長は事前にリストを提出せず、8月31日にきっちり定員どおりの105人の候補者を推薦。つまり、安倍官邸による不当な人事介入を阻止し、しっかりとその独立性を示そうとしたのである。
この山極会長の姿勢に対し、すでに辞任を決めていたとはいえ、自分に楯突く人間を決して許さない安倍首相が激高しただろうことは想像に難くない。現に菅政権発足直前の9月2日には内閣府は2018年の法解釈を内閣法制局に確認しているように、任命拒否することはこの時点から既定路線だった可能性が高いだろう。
しかも、気になるのは、任命拒否が明るみに出た10月1日の菅首相の行動だ。この日、菅首相は官邸からわざわざ議員会館に赴き、安倍前首相と面談をおこなっているのである。タイミングから考えても、日本学術会議への報復という「安倍政権の継承」を、あるいは今後の対応や方針を報告していても不思議ではない。
任命拒否を実行した菅首相の責任は重大であること、違法行為を働いたことは事実であり、その追及はしっかりおこなわれなければならない。だが、2016年から人事介入がはじまり、明らかな解釈変更がおこなわれていた経緯を踏まえれば、安倍前首相が果たした役割は極めて重いのだ。
体調悪化を理由にした“トンズラ辞任”と菅氏への禅譲により、安倍政権の問題はまるで何もなかったかのようにリセットされ、昨日7日には東京五輪大会組織委員会の顧問会議の「名誉最高顧問」に就任することが発表された。しかし、総理を辞任したからといって、この学問の自由、言論の自由を踏みにじった安倍前首相の行為はなかったことにはならない。安倍官邸による人事介入がはっきりしたいま、安倍前首相の責任をも問うことは必要だ。
(編集部)
最終更新:2020.10.08 05:16