その後に指名されたNHK記者の質問は「拉致問題について」。次のテレビ朝日記者は「配備計画停止となったイージス・アショアの予算を宇宙やサイバー、電磁波といった戦略構築に向ける考えはあるか」と「イージス・アショアや給付金、国家公務員法改正案の見送りなど、ブレーキをかけることが増えている原因は」。5社目の日本経済新聞記者は「海外とのビジネス往来について」。つづいて、ラジオ日本記者は「残り1年3カ月となった総裁任期についての率直な心境」、日本テレビ記者は「ポスト安倍としてふさわしい候補は」、8社目の読売新聞記者は「安保戦略について。自民党内では敵地攻撃能力の保有を求める声があるがどう考えているか」……。
ここまできて、司会者である長谷川榮一・内閣広報官が「外交日程があるので最後になるかもしれません」と言い出す。長谷川内閣広報官といえば、経産省出身で例の電通再委託問題で外注先となっているイベント会社「テー・オー・ダブリュー」の元顧問であり、なんなら記者は長谷川内閣広報官にもこの件について質問をしてほしいくらいだったが、この長谷川氏の会見打ち切り宣言に大きなブーイングも出ず、当てられた西日本新聞の記者の質問は、「財政不安について」と「プライマリーバランスの2025年度黒字化目標は維持されるのか」というものだった。
そして、この質問に安倍首相が答えたあと、長谷川内閣広報官が会見を打ち切ろうとし、挙手している記者に「広報室に書面で質問を提出」するよう呼びかけはじめる。「もうちょっと時間をとって……」という声もあがったが、長谷川内閣広報官は「だいたい1時間弱ということなんですけども」「外交日程がありますので、ちょっときょうはそういうことでご理解」などと押し切ろうとする。するとここで「外国メディアも」と声があがり、長谷川内閣広報官は「バランスを考えて私共やっておりますので」と言ったものの、安倍首相が「外国メディア」と口にし長谷川内閣広報官に目配せしたことから、最後にイギリスの軍事週刊誌の記者が質問に立つことに。質問は「イージス・アショアは停止なのか中止なのか」ということと、北朝鮮と韓国の関係悪化にかんして「在韓日本人の救出などについてのプランはあるのか」というもので、安倍首相が質問に答えると、会見は打ち切られてしまった。
何度でも繰り返すが、この会見のわずか数時間前に、戦後初となるような国会議員の逮捕劇がおこなわれたのだ。にもかかわらず、その問題についての質問が記者から出たのは、たったの1回。しかも、それは事前に安倍首相に報告がなされている幹事社の代表質問だ。
前述したように広報誌の印刷・配布だけで1億5000万円もかからないという問題や、誰がそれだけの巨額を投じることを決めたのか、河井氏を法相に任命した理由、河井氏と安倍首相の関係、さらに案里氏の選挙に安倍事務所の秘書を投入したのはどうしてだったのか、そこで秘書はどういう立ち回りをしたのか……質問で追及するべき事柄は山のようにあるというのに、指名された記者は誰ひとり河井夫妻逮捕にかんする質問をぶつけなかったのだ。
いや、質問に当てられなかった記者たちのなかには、こうした質問をしたかった記者もいたはずだろう。長谷川内閣広報官は図らずも「バランスを考えて私共やっておりますので」と言っていたが、ようするに厳しい質問しない記者を厳選した、ということではないのか。
「責任を痛感」と言いながらその「責任」を果たさない安倍首相と、政権を揺るがす大事件が大きく動いた歴史的な日にそのことに触れない記者たち……。この権力とメディアによる“共犯関係”があるかぎり、政治家の不正を正すことなど、この国では不可能だ。腐りきっている、と言うほかないだろう。
(水井多賀子)
最終更新:2020.06.18 10:59