これらは氷山の一角であり、当時の朝鮮人・韓国人徴用工の同様の悲惨な状況を物語る証言や証拠は山ほど存在するのだ。ところが、「産業遺産情報センター」ではそれを一切紹介せずに、「差別はなかった」という証言をクローズアップして紹介しているのだ。
同センターの加藤康子センター長は朝日新聞の取材に「政治的な意図はない。約70人の元島民へのインタビューで、虐待を受けたという証言はなかった」と説明したが、これが政治的でないはずがないだろう。
そもそも、この「明治日本の産業革命遺産」は、安倍首相とそのお仲間が大日本帝国を美化する歴史修正主義を推し進めるために始まったプロジェクトなのだ。ユネスコという国際機関に「世界遺産」と認めさせることでその歴史を正当化し、戦前の負の部分を矮小化する。それが安倍首相とお仲間の目的だった。
実際、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産化は「一般財団法人産業遺産国民会議」なる団体が登録運動を担ってきたのだが、この団体には安倍首相のお友だちの右派人脈がずらりと顔を揃えている。名誉会長の今井敬・経団連名誉会長は、安倍首相の側近中の側近である今井尚哉首相秘書官の叔父、理事には、日本会議福岡の元名誉顧問でNHK経営委員長の石原進・JR九州相談役、フジテレビ取締役相談役の日枝久・前会長、さらには加計学園問題でも名前が挙がった元内閣参与の木曽功・千葉科学大学学長。しかも、徴用工問題で訴えを起こされている三菱重工業の飯島史郎顧問や、新日鐵住金の林田博顧問なども名前を連ねていた。
そして、専務理事として同団体を実質的に仕切っていたのが、現在、くだんの産業遺産情報センターのセンター長におさまり、「約70人の元島民へのインタビューで、虐待を受けたという証言はなかった」などと言い張った加藤康子氏だった。
加藤康子氏は2015年12月から今年7月まで内閣官房参与を務め、「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録の“陰の立役者”などと呼ばれているのだが、この康子氏と安倍首相は“幼なじみ”で家族同然の深い関係にある。康子氏は故・加藤六月元農水相の長女なのだが、加藤氏は安倍首相の父・晋太郎氏の安倍派四天王の筆頭で、康子氏の母は安倍首相の母・洋子氏と“姉妹”のように親しかったというのは有名な話だ。また、康子氏は安倍首相の側近である加藤勝信厚労省の元婚約者でもある(勝信氏はその後康子氏の妹と結婚したため、義理の弟にあたる)。