しかも、こうした冷淡な態度は、早紀江さん個人に対してだけではない。安倍政権は第二次政権発足時に「拉致問題対策本部」のもと拉致関連の会議体を6つも発足させているが、それから5年あまり「日刊ゲンダイ」(12月4日付)が会議の開催状況を調べたところ、いずれの会議体もほとんど開かれることなく開店休業状態になっていたという。
ようするに、拉致問題を前面に出して国民の人気を獲得し、首相にまでのしあがり、いまもことあるごとに拉致問題の解決を強調している安倍首相だが、実際は北朝鮮への強硬姿勢じたいが目的であり、拉致問題の解決や被害者家族の思いなんてまったく本気で考えていなかったというだろう。
そしておそらく、早紀江さんは安倍首相のこうした態度をそばでみているうちに、その本質を見抜いてしまったのではないか。
実際、早紀江さんは前述した11月15日の「信じてよかったのか」以前から、少しずつその“本音”を語るようになっていた。
トランプとの面会を前に10月17日に行った会見でこう訴えている。「戦争などやらないように。平和にやるように期待している」(「サンデー毎日」11月12日号より)。また11月4日に時事通信の取材に応じた際にも、北朝鮮への対応について「制裁も必要だが、対話も必要だ。侮られてはいけないが、追い詰めるだけでもいけないのでは」「戦争だけはやめてほしい。人を殺りくして街も壊滅するのでは意味がない」と戦争反対の思いを語り、11月18日に行われた新潟市の「忘れるな拉致 県民集会」でも、トランプ面会について触れた後、「今がチャンスです。安倍総理が平壌に行って、金正恩氏とちゃんとした話し合いをしてきていただければ、どんなにありがたいだろう」と、圧力ではなく、安倍首相の訪朝と対話を望む訴えをしている(朝日新聞11月19日付地方版)。
これらは、明らかにトランプの強硬路線に盲従し、北朝鮮との戦争すらやりかねない安倍政権への反対意見表明と言っていいだろう。こうした早紀江さんの変化について長年、拉致問題を取材するジャーナリストはこう話す。
「2004年の日朝実務者協議で、めぐみさんの遺骨が提出され、それが偽物だと判明して以降、早紀江さんの不信感は高まっていったのですが、しかし“お願いする立場”や、先鋭化する家族会や、安倍首相を礼賛し北朝鮮への先制攻撃を叫んでいる極右団体である救う会に説得、いや、ある意味洗脳されて、本音が言えなかったのです。しかし、そうしているうちに時はどんどん流れる。現在早紀江さんは81歳ですから年齢を考えても時間がない。11月19日にNNNドキュメントで「“ただいま”をあきらめない 横田夫妻の40年 残された時間」が放送され、滋さんの体調の悪化が公にされましたが、いまや政府や救う会に遠慮している時間などないということでしょう」