そして、このデマを駆使した一斉反論は、まさに「官邸の指示」によって引き起こされたものなのだ。指示の言葉は「事実の誤りに反論しろ」だとしても、安倍政権下で官邸がひとたび命じれば、忖度官僚たちがどう動くかは自明だろう。批判封じ込めのために重箱の隅をつつくように報道の些細な誤りを探し、誤りがなければ、事実の立証が困難なグレーゾーンの報道、さらにはただの論評や分析にまでけちを付ける。さらには、政府の側がデマを駆使してでも反論する。それが、いま起きていることだ。
今回は『モーニングショー』が圧力に怯まず、反論のために検証取材して、逆に厚労省の嘘を暴いたからよかったが、メディアがこの権力から「事実の誤りへの反論」を装った圧力をうけると、ほとんどの場合、萎縮し、政権批判を鈍らせてしまう。
たとえば、同じテレビ朝日の『報道ステーション』が昨年12月、自民党の世耕弘成・参院幹事長から、抗議を受けてどうなったか。世耕氏は安倍政権が「桜を見る会」問題で説明責任を果たしていないことを伝えるニュースのなかで、年内の定例会見の予定について問われた世耕氏が「よいお年を」と返したシーンを使ったことが「印象操作だ」「切り取りだ」とかみついたのだが、世耕氏は明らかに(まだ12月10日なのに)年内の定例会見はもうやらない=もう説明しない、という意味でこのセリフを吐いており、「切り取り」でも「印象操作」でもなんでもなかった(既報参照→https://lite-ra.com/2019/12/post-5140.html)。
ところが、『報ステ』は世耕氏に対して番組で全面謝罪。世耕氏のVTRを担当したデスクの経済部に異動させ、今年4月には鈴木大介チーフプロデューサー(CP)と筆頭デスクを交代させてしまった。
こうしたケースはほかの新聞、テレビでもさんざん繰り返されてきた。その結果、大手マスコミは事実を立証できないグレーゾーンの報道に踏み込まなくなり、分析や論評ですら野党や識者の意見としてしか扱わなくなったのである。
しかし、今回のコロナ対応では、多くの国民が怒りの声をあげていることに背中を押され、テレビもひさしぶりに安倍政権批判に踏み込んだ。そこで、官邸がまたぞろ萎縮効果を狙って、政府機関に「反論」を促したのだ。
しかも、「事実でない報道に反論をする」というのはあくまで報道されることを前提に官邸幹部が認めた指示内容で、実際の指示は具体的に『モーニングショー』や岡田晴恵・白鴎大学教授を名指しして「黙らせろ」というかなり強硬なものだったといわれる。
もう一度言うが、いま、官邸や政府機関、自民党がやっていることは、自分たちへの批判封じ込めを目的とした言論弾圧以外の何物でもない。これでもまだ「ただの反論」「誤報の検証」などといっているメディア関係者はそれこそ、政権の回し者だと考えたほうがいい。
(編集部)
最終更新:2020.03.08 01:04