首相官邸HPより
その前にもっとやることがあるだろう。多くの国民がそうつっこんだはずだ。安倍首相が新型コロナで緊急事態宣言を出すために、民主党政権下で成立した新型インフルエンザ特措法改正に向けて動き始めた。
同法では首相が期限や区域を定めて緊急事態を宣言できると規定しているが、これを新型コロナにも適用できるよう改正するのだという。しかし、首相が緊急事態を宣言すれば、都道府県知事は感染を防止するため、不要不急の外出自粛、学校などの使用制限を要請できる。ようするに、国民に大幅な私権の制限を強いることができるようになるのだ。
そのため、同法の緊急事態宣言は2013年に施行されて以降、宣言されたケースは一度もないが、安倍首相は今回、改正が成立したら、即座に緊急事態を宣言する計画だと報じられている。
自分たちの後手後手かつ場当たり対応とずさんな管理で感染拡大と混乱を引き起こしたうえ、いまだ検査体制も医療体制も整えられず、大見得切ったマスクの供給も確保できていないくせに、突然やる気を見せたと思ったら、国民にだけ不自由を強いる私権制限とは……。
しかも、謎なのが、前述したように緊急事態宣言の条項はすでに新型インフル特措法にあるのに、わざわざ法改正しようとしていることだ。新型インフル特措法は新型コロナと病原菌が違うから同法を適用できないというのが安倍首相の説明だが、新型インフル特措法の条文を見ても「新型インフルエンザ等」となっている。それよりなにより、安倍政権はこれまで、集団的自衛権容認、黒川検事長の定年延長への国家公務員法適用など、さんざん法解釈を捻じ曲げてきたのではなかったか。にもかかわらず、なぜ今回だけ、厳密さを求め、法律を改正しようというのか。全国紙のベテラン政治部記者が解説する。
「安倍首相はとにかく自分の手ではじめて緊急事態宣言を出して、決断力をアピールしたいと考えている。緊急事態宣言は私権を制限するため右派受けもいいから、コロナ以降、右派の“安倍離れ”食い止められるという計算もあるんだろう。ただし、アピールのためには、民主党政権下で作られた新型インフル特措法をそのまま使いたくない。それに、私権制限には慎重論も多いため、少しでも要件がずれると反対派に口実をあたえることになる。だから、自分たちの手で法律を改正して、一気に自分の手で緊急事態を宣言しようとしているわけだ。野党が反対しても、逆に『野党は危機意識がない』『野党がコロナ対策の足を引っ張っている』などと反撃材料になるから、いまの追い込まれた状況を逆転できるし、一気に今の追い詰められた状況を逆転できると考えたんだろう」
安倍首相の頭の中にあるのは結局、政治的な“やってる感”アピールだけ。国民の生命や健康なんてどうでもいいのである。
しかも、恐ろしいのは、安倍首相とその取り巻き政治家たちの発言の端々に、新型コロナで“緊急事態”をもちだすことで、国民を黙らせ、政府の指示に唯々諾々と従う戦前並みの体制をつくろうという意思が垣間見えることだ。