「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客は隔離されているのに、一方で濃厚接触者の検査も徹底せず、自宅待機で済ませる。ロシア外務省のザハロワ報道官は10日、「日本の対応はカオスで場当たり的だ」とロシアのラジオ番組で批判したというが、この矛盾を見れば、安倍政権のこの間の「水際作戦」が、何の整合性もない、たんなるパフォーマンスにすぎなかったことは明らかだろう。
いや、パフォーマンスをしただけならまだましかもしれない。安倍政権の対応がもっとも問題なのは、意味のないパフォーマンスの一方で、「検査・治療体制の整備」という感染拡大食い止めにもっとも重要な対応を放棄してきたことだ。
その典型が、PCR検査を受けたくても受けられないという問題だ。以前から、中国渡航歴のない人でも疑わしい症状のある人にはPCR検査すべきという声が上がっていたが、厚労省はあくまで中国渡航歴のある人に限定し、検査を受けられる体制をつくろうとしなかった。12日になって、安倍首相がようやく「各自治体の判断で一定の症状がある方に対して検査が可能である」と方針を変更したが、対応が遅すぎるうえ、いまなお自治体に責任を押し付けるという姿勢を変えていない。
この検査のスポイルはあれだけ感染が広がっている「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客やスタッフに対しても同様だった。乗船客のなかには、早くから「検査を受けたい」という声が上がっていたが、厚労省は、全員検査をおこなおうとしなかった。
厚労省は「対象者が多い」ことをその理由に挙げ、菅義偉官房長官も10日の会見で「現状では厳しい」という認識を示していたが、これは真っ赤な嘘だ。
国立感染症研究所や地方衛生研究所だけではなく民間の検査機関を使えば、全員検査はすぐにでも可能だからだ。実際、13日放送『モーニングショー』では、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広医師が、玉川氏の「日本の民間検査会社でPCR検査はできるのか?」という問いに、「簡単です、簡単。このウイルスに限らず、ウイルスのPCR検査というのは日常的にやられています」と即答。さらに万単位の検査も「(政府が)やる気になればすぐできます」「1週間とかのオーダーでできると思いますよ」と断言している。
さらに、厚労省は検査のための「試薬が足りない」とも言うが、バイオ事業会社であるタカラバイオは中国・大連市からの緊急要請を受けて、新型コロナウイルスの検査試薬の生産量を従来の50倍となる1週間あたり25万検体分まで増加。同社は「日本国内でも政府、自治体、民間企業からの要請があれば供給可能」と答えていた。つまり、「対象者の多さ」や「試薬不足」はクリアできる。
安倍首相は11日、民間の協力も得て「18日までに1日最大300件程度の検査能力を1000件超まで増やせる見通し」などと得意気に発表したが、なんのことはない。実際には「やる気になれば」万単位での検査も可能だったのである。