このようにアスリートたちはスポーツを通して偏狭なナショナリズムを乗り越えている。それに比べると、メディアの感覚はあまりに前時代的である。
ただし、メディアだけがナショナリズムを勝手に煽っているというわけではない。ほかならぬ、日本ラグビーフットボール協会が、こうした愛国ナショナリズム路線を打ち出しているフシがある。
たとえば、今回のワールドカップのパンフレットやポスターには、日の丸や富士山がデザインされている。当たり前だが、ワールドカップに参加するのは日本だけではない。大会の目的はラグビーであって、日本をアピールすることではない。にもかかわらず他国の存在を無視し、自国の国旗をあしらうなど国際感覚の欠如甚だしい。周知のとおり、この協会の会長を2005年から2015年まで務めて、ワールドカップを日本に招致し、今年4月まで名誉会長の座に座っていた森喜朗元首相の存在感が、ラグビー界において非常に強い。ラグビー愛国路線の背景には、首相在任中の「神の国」発言でも明らかなように極右思想の持ち主である森氏の影響も大きいだろう。
そして恐ろしいのは、メディアも含め、国民がこうしたスポーツのナショナリズムへの利用に違和感をもたなくなっていることだ。
今回のワールドカップでは、試合会場への旭日旗の持ち込みまで散見されているが、こうしたナショナリズムの空気が後押ししているのは間違いない。好調な日本チームが決勝トーナメントに勝ち進んでゆけば、このムードがさらに強くなる可能性もある。旭日旗の持ち込みについていまだ主催者は明確な対応を示しておらず、今後も旭日旗の持ち込みが繰り返される可能性はあるだろう。
来年には東京オリンピック・パラリンピックが待っている。そこではさらなるナショナリズムの扇動があるだろうが、この調子ではそこに疑問を差し挟むメディアは皆無であろう。オリンピックにおいても組織員会は旭日旗の持ち込みを禁止しない方針を打ち出し、橋本聖子・五輪担当相もその方針を追認している。
権力側がこのようにナショナリズムを扇動しメディアも便乗、国民もそれに疑問をもたず熱狂しているようでは、オリンピックの会場で旭日旗が大量に振られるというグロテスクな光景が展開される可能性も決して低くはない。このナショナリスティックな空気のままオリンピックを迎えることは本当に深刻な事態だ。
ワールドカップでの日本代表の活躍にはしゃぐのもいいが、無自覚にナショナリズムが煽られている現状の危険性にも目を向けてしかるべきだろう。
(編集部)
最終更新:2019.10.08 04:24